金メダルをとるんじゃなかったと思った日々

岩崎 多分、今ならネットでバッシングされるようなことが、その当時はインターネット環境も発達していなかったので、ダイレクトに届けられたんです。他人の容赦ない視線がガラスの破片のように私の体に突き刺さり、噂話が私の心をむしばんだ。「あんな言葉を言わなきゃよかった」と毎日思ったし、しまいには金メダルなんてとるんじゃなかったって。

―― 自分を守るため本能的に記憶を消したんですね。消さなければ生きていけなかった。

岩崎 後で考えても、何に悩んでいたのかよく覚えていないんです。忘れるくらい何もかも苦しい時期だった……。大学で心理学を専攻し、卒論を書くときに、その頃の自分を分析しようと試みたのですが、教授に止められました。「まだ早い。大学生の君は、当時の記憶に耐えられるほどまだ心ができていない」って。しばらくたって中学や高校時代の友人に「あの頃こうだった、ああだった」と言われ、かすかに記憶が戻るくらいですね。

 ただ、記憶がない時期は家族だけが私の支えでした。3姉妹の次女なんですけど、私が家で普通に過ごせたのは、父や母がどれだけ頑張って私を守ってくれたか、私が母になった今、よく分かります。

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取材・文/吉井妙子 写真/洞澤佐智子