オリンピックというひのき舞台で輝いたスポーツ界のヒロインたちの「その後」は、意外に知られていません。競技者人生がカセットテープのA面だとすれば、引退後の人生はB面。私たちの記憶に残るオリンピアンたちの栄光と挫折に、ジャーナリストの吉井妙子さんが迫ります。

(上)挫折後にたどり着いた「遊戯三昧」の境地
(下)テニス引退で書いた100個のウィッシュリスト ←今回はココ

「引退はテニスの神様が教えてくれる」

―― 34歳で引退されましたが、決断には葛藤がありましたか。

杉山愛さん(以下、敬称略) 30歳を過ぎたあたりから、「私はどんな風に引退するんだろう」と漠然と考えるようになりました。ある時、既に引退していたヤナ・ノボトナ(ダブルスの名手として知られたチェコのテニス選手)に相談したんです。

 すると、「そう考えているうちは続けなさい。時期が来たら必ずテニスの神様が教えてくれる」って。その言葉によって「引退」の二文字は頭から消えたのですが、34歳の夏に翌年のスケジュールのイメージが突然できなくなった。その時にこれがヤナの言う「テニスの神様が肩をたたく」ことか、とその年で引退を決め、1年に地球を3周する生活に終止符を打ちました。

杉山愛(すぎやま・あい)
杉山愛(すぎやま・あい)
1975年、神奈川県生まれ。4歳でテニスを始め、17歳でプロに転向。グランドスラム(GS)大会などで活躍、GSのシングルスでは2000年全豪、04年ウィンブルドンでベスト8入り。ダブルスでは00年全米、03年全仏とウィンブルドンで優勝を果たす。自己最高ランキングはシングルス8位、ダブルス1位。五輪にも4回連続出場した。09年、34歳で現役引退後はスポーツコメンテーター、解説者として活躍する他、後進の指導にあたる

―― 引退後に間もなく結婚、その後、出産、育児、そしてテレビのコメンテーター、講演、大学院での研究者生活、テニスの指導者と選手時代と変わらない活躍でした。

杉山 いやいやそんな……。多分、引退してすぐ「ウィッシュリスト100」を作ったのが良かったんだと思います。実は引退直後のインタビューで「次の夢は何ですか」と聞かれるのがプレッシャーでした。私の方が知りたいよ、って(笑)。そこで自分は何をやりたいのか、ピックアップしてみることにしたんです。身近なことから将来の夢まで何でもいい。

 例えば「屋久島に行く」「書道を習う」「万華鏡を買う」など思いついたことをすべて書き出してみた。初めは20~30ぐらいしか思いつかなかったけど、ウィッシュリストを書いているうちに、現在の自分を知ることができたし、それが本当に実現したいことなのか、そのために今何が足りないのか、どんな努力が必要なのか明確になってくるんです。最終的には100個になりましたよ。ただ漠然と頭に思い描いているだけでなく、文字にすることで頭が整理され、そして行動が伴ってくる。このウィッシュリスト100は、皆さんにもぜひお勧めしたいですね。

―― ウィッシュリストの1番目が結婚、2番目が出産だったとか。

杉山 そう。ただ書いているときはボーイフレンドもいない状態で、ましてや出産なんて……。引退時から10年間はプライベートを充実させたかったので、身近な願いを記していました。ところが、不思議なものでこの願いが次々と実現していくんですねえ。(笑)