オリンピックというひのき舞台で輝いたスポーツ界のヒロインたちの「その後」は、意外に知られていません。競技者人生がカセットテープのA面だとすれば、引退後の人生はB面。私たちの記憶に残るオリンピアンたちの栄光と挫折に、ジャーナリストの吉井妙子さんが迫ります。
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(下)「今日死んでも悔いなし」の思いが子育てで一変
1ミリも妥協しないで五輪を迎えたい
―― トリノ五輪でフリーの演技を終えた瞬間、観客が総立ちし興奮状態で喝采を送っていました。完璧な演技で金メダル。上体を反らす演技の「イナバウアー」は、2006年の流行語大賞にもなりました。
荒川静香さん(以下、敬称略) ショートプログラム(SP)もフリーも氷に乗ったときは冷静でしたね。トリノ五輪までに考えられる練習はすべてやり尽くしてきたという満足感がありましたし、演技中は、お世話になった方々、指導してくれた恩師、応援してくださった関係者の方々へ、感謝の気持ちを精いっぱい表現したいという思いだけでした。
正直、メダルを狙おうという気持ちはあまりなくて、1ミリも妥協しないで五輪という大きな舞台にたどり着くというのが私の最大の目標でした。それができればおのずと結果もついてくると。
ただトリノ五輪後の環境の変化にはちょっと戸惑いましたね。どこに行っても「あ、イナバウアーの人だ」って(笑)。ついでに言うと、イナバウアーは加点をされないんです。でも、点数だけを意識した演技をしたくなかったのであえて取り入れました。