常識の枠を飛び越えた「本質」をどう伝えるか

 街の作りや自然環境、時には歴史までにも触れながら、その場所に相応しいデザインを作り上げていく。固定概念を外しながら、求められているものは何なのか、本質とは何かを突き詰める。

 しかし、アーティストとは違い、クライアントがいる仕事のため、自分の意見ばかりでなく相手の希望を汲み取る必要があり、すんなりと方向性が合致することもあれば、言葉を重ねなければ伝わらない場合もある。そこで永山さんが最も大切にしているのは、「コミュニケーション」だ。

 コミュニケーションをとる上で心がけていることを伺うと、「相手の目線に立って考えること」と、シンプルな答えが返ってきた。

「本当に価値あるもの」を生み出すためにコミュニケーションを徹底する永山さんは、立ち居振る舞いの一環として装いにも気を配る。耳元で揺れるスクエアなデザインが凛とした印象のプラチナ・ピアス(83,000円/イトイ)は、ダイヤモンドの輝きがアクセントに。<br>■<a href="http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=404393" target="_blank"><b>ピアスの詳細はこちら</b></a>
「本当に価値あるもの」を生み出すためにコミュニケーションを徹底する永山さんは、立ち居振る舞いの一環として装いにも気を配る。耳元で揺れるスクエアなデザインが凛とした印象のプラチナ・ピアス(83,000円/イトイ)は、ダイヤモンドの輝きがアクセントに。
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 若い頃は、自分はこんな思いでデザインしたと相手を納得させることにこだわり、「だいぶ生意気だったと思います」と笑う。相手とぶつかる経験の中で、一方的に自分の思いを伝えるのではなく、同じ目線に立って共通言語を一緒に探したほうがうまくいくことに気がついたという。

「たとえば、クライアントに対して専門的な話をしてもなかなか伝わらないので、相手が何を求めているのかを考えて、できるだけ共感を持ってもらえるような言葉で説明するようにしています。そのために、一緒に現地まで視察に行くこともありますよ」

 とある店舗の提案をした時のこと。クライアントから「京都の町屋風に」と言われたが、求められているものが常識に縛られていると永山さんは感じた。模倣には意味がない。そこにしかないものを作らなければならないし、お客様に特別なものとして伝わらないといけない。そこで一緒に京都へ行き、京都らしさとは何か、本当の京都らしさは必ずしも京都を模倣することではなく、根底にある考え方、周囲との関係の結び方なのではないかと噛み砕いて伝えた。

 「まだ誰も見たことがないものを作ろうとしているわけですから、理解を深めるためには持っているボキャブラリーを最大限に使うだけでなく、それを納得いただくための視察のようなことも重要です。当たり前に思っていたことを疑いながら、新しいあり方、一番適している状況を一緒に探していきます」 

理論武装より寄り添うことで120%の力を引き出す

 永山さんのコミュニケーションへのこだわりは、クライアントだけに発揮されるわけではない。「そもそも建築家の仕事は、伝えることです。建物をつくる現場では私が手を動かすわけではありません。実際に作ってくれるのは施工者や職人さん。だからこそ、デザインに込めた思いやこう作ってほしいという希望を、繰り返し正確に伝える必要があります。全てコミュニケーションだけで巨大な建築物を作っているといっても過言ではありません」と永山さん。

 独立したての頃には、若い女性である永山さんに指図されることを、面白く思わない人もいた。そういったとき、理論武装をして打ち負かすのは逆効果。相手のプライドを大切にしながら、協力者として一緒に作り上げていくというリスペクトの気持ちを伝えるようにしていた。そうすることで、相手の力を120%引き出すことができ、難しいことにもチャレンジしてもらえるとわかった。

 そして、いかに効果的に伝えるか、その手法にも気を配る。「あえて今日ではなく次のタイミングに言う、この場ではやめて後からメールで伝えるなど、相手の気持ちや状況を考慮して、どうスムーズに理解してもらうかの工夫は常にしていましたね。」

 子育ても、そのコミュニケーション術に影響を与えたもののひとつだったという。職業柄、説得するのは得意だと思っていたが、相手は理屈など全くわからない子ども。ただひたすらに向き合い、気持ちを共有することだけが必要な時もある。「とにかくプロジェクトを進めるために“上手に説明”していた時期もありましたが、もう少し柔らかくやっていこうかなと思えるようになったのは、子育てがあったからかもしれないですね」

 対外的な場面だけでなく、事務所のスタッフとのコミュニケーションも大切にしている。特に心がけているのは「やる気の伝達」。永山さんがすべての現場に行けるわけではないため、自分のやる気をしっかりとスタッフに伝え、それをスタッフが施工者や職人に伝えて、力を発揮してもらう。「マネージメントの立場として、関わる人全員に、自分の仕事だと思ってもらうのが最も大事なことだと意識しています」

 良いものを作るためには、コミュニケーションを厭わない。建築家でなくても、どんな仕事にも通じる本質ではないだろうか。