いきなりの「大抜てき人事」はNO!

 とはいっても、「取締役に女性を」と企業が言い出したのもここ数年。日本はまだまだ表面的なお化粧をしている段階で、スタート地点についたばかり。会社もそういうつもりで女性を教育してこなかっただろうし、女性もそういうつもりで働いてなかったかもしれません。まさに今は過渡期です。

 私のように社外からの登用であれば、「女性だから」と言われることについて気負いはありませんが、社内からの選出であれば、「女性だから選ばれた」と思われることはプレッシャーです。失敗すれば後に続く女性たちの活躍の芽を摘んでしまうかもしれない。その状況では、自分が本当に通したいものも通せなかったり、嫌がらせを受けたりもするでしょう。

 やみくもに女性を昇進させるのではなく、プロセスを踏んで、自他ともに実力を認められる人材を育成してほしい。女性がたった1人ではなく、同時並行で何人かが役員になることも必要です。幹部候補生の勉強会があるなら、そこに女性が入ること。そういうプロセスをすっ飛ばして、お飾りで女性を1人だけ取締役に入れても、重責で辞めてしまうのではないでしょうか。その結果、「ダイバーシティがうまくいかない」とか、「女性に役員は荷が重い」と言われてしまうのは、納得がいきません。

 アナウンサーの仕事でも、新人のときに実力が伴わないまま「大抜てき」され、大きな仕事を任されることがあります。そこで面白いほうに転がればいいですが、番組がうまくいかないと、なぜかそのアナウンサーの責任になる。最初にミソがついて「使えない」となると、その後ずっと活躍の場が与えられないというケースをいくつも見てきました。「大抜てき」などせずに、段階を追って経験を積ませれば、数年後には花開くはず。もちろん期待に応えられない人がダメなのだという意見もあるでしょうが、人材をどう育てて、どう輝かせるかを考えるのが人事だと思います。

男性の解放が女性活躍につながる

 「女性の活躍がうまくいかない」。その根本の原因は、男性が本当の意味で活躍できていないからだと私は思います。そもそも日本の男性は会社の中で、いろいろな理不尽を飲み込んで、すごく我慢している。だから、女性が産休や時短勤務の制度を利用することに「女性はいいよな」と思う層が少なからずいると思うんです。

 まずは男性が理不尽な我慢をやめること。長時間労働をなくし、もっと有休を使ってプライベートの時間を充実させることが大事です。男性も子育てをするようになれば、女性の大変さが分かるし、会社でも部下の女性の働き方が理解ができる。そういう人が増えていけば、会社も変わりますよね。

 男性が会社奴隷地獄から解放されて、自分の人生を楽しめる状態になれば、女性にも優しくできるはず。女性の活躍は、男性が解放されるところから始まっていくと思います。

取材・文/竹下順子 写真/洞澤佐智子、鈴木愛子(イメージ写真)