30代でアナウンサーを辞め、弁護士という新しいフィールドに挑戦した菊間千乃さん。自らの手でキャリアを選択してきた菊間さんが、自身の体験や感じた事柄について語ります。今回のテーマは「選択的夫婦別姓」です。最高裁判決に付随された3つの意見を読み解きます。

判決に付随された約50ページにわたる意見

 この連載で以前の記事(結婚して実感した「選択的夫婦別姓」の意義)でも取り上げた選択的夫婦別姓について、6月23日に、最高裁大法廷で司法判断が示されました。内容はすでに報道されている通り、2015年の判決を踏襲し、夫婦別姓の婚姻を認めない民法と戸籍法の規定は「憲法違反ではない」というものでした。選択的夫婦別姓を支持する声が高まっていることは認めつつも、婚姻制度のあり方は、子どもの姓や戸籍の問題と合わせて「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」と、立法に議論を促した格好です。

 今回判決に関わった裁判官15人のうち、夫婦別姓を認めない現行制度は違憲であるとしたのは4人。結果だけみると、5年前の最高裁大法廷判決と同じですが、今回は約50ページにもわたる意見が付随されました。最高裁判事だけに認められている、この「意見」(地裁や高裁の判決で、裁判官の「意見」が判決文に記載されることはありません)は、その結論に至る裁判官自身の考え方が明確に述べられる部分であり、その判例を理解する上でとても重要なものです。

 著名な裁判官の意見はとても重視されます。私も司法試験の受験生時代は、大法廷判決では、結論よりむしろ各裁判官の意見を理解することに多くの時間を割きました。いきなり最高裁の判決文を読んでも、何が何だか分からないと思うかもしれませんが、今回は「選択的夫婦別姓」という身近なテーマですから、とっつきやすいと思います。全文のPDFファイルが最高裁のホームページにありますから、みなさんにもぜひ読んでみていただきたいと思います。

「約50ページにわたる意見は読みごたえがありました」と菊間さん
「約50ページにわたる意見は読みごたえがありました」と菊間さん

選択的夫婦別姓制度は国会で論じられるべき

 意見の種類には「補足意見」「意見」「反対意見」の3つがあります。「補足意見」は判決の結論に至った理由を補足するもので、補足意見を読むと多数派の論理構成が分かります。

 今回は、選択的夫婦別姓制の導入を支持する人の割合が増加しているといった国民の意識変化が見られること、夫婦同氏制度により長年使ってきた氏を改めることでアイデンティティーの喪失感を抱く人がいること、女性の活躍推進という観点から選択的夫婦別姓の導入を検討すべきという意見があること、全国の地方公共団体の議会から選択的夫婦別姓の導入を求める意見書が提出されていること、女子差別撤廃委員会から選択的夫婦別姓を認めるよう勧告がされていること――などの事情をすべて考慮しても、現行制度(夫婦同氏制)が憲法違反ということはできない。選択的夫婦別姓制度の導入については、国会において論じられ判断されるべき事柄であるという判断を示しました。