定年後を見据えた働き方、生き方を意識し始めたシングル会社員の悩みに、「キャリア」と「お金」の両面から実践的なアドバイスをお届けします。相談者は前回に続き、ハードワークからのシフトチェンジを考えている49歳のユリさん。仮にフリーランスでゆるやかに働くスタイルに変えた場合、収入減が想定されますが、経済面で問題はないのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんが、話題の「FIRE」の紹介も交えながらシミュレーションしていきます。

相談者No.4 ユリさん(49歳、監査法人)

監査法人に勤める公認会計士。これまで同社で15年以上バリバリ働いてきて、専門職としてのキャリア・収入ともに満足している。だが、出張の多い生活で、最近は体力的に限界を感じている。これからの人生は、仕事ばかりでなく自分のやりたいことをしてみたいので、働き方をもっとゆるやかに自由なものにシフトできないかと真剣に考えている。仕事柄、数字には強く、資産運用はしっかりとしてきた。

お金編アドバイザー 高山一恵さん(ファイナンシャルプランナー)

 ユリさんのように、専門職でバリバリ働いている方は、仕事にやりがいを感じている一方で、ハードワークの日々で多大なストレスを抱えている方が少なくないのではないでしょうか。体力の低下が気になるお年ごろということもあり、もっとゆるやかな働き方にシフトしたいとご希望されるお気持ちはとてもよく分かります。

 とはいえ、もっとゆるく働くということは、現実的には収入が下がることが多いもの。ですから、経済的な面もしっかり考えておく必要があります。

話題の「FIRE」を実現するのに必要な資産は…

 今、世間では若い世代を中心に「FIRE」が話題になっています。FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった造語。経済的に自立し早期退職を目指す、といった意味です。昔のいわゆる早期リタイアは、億万長者になって仕事を辞め、後は資産を取り崩して生活するといったイメージですが、FIREでいう早期退職は、資産運用によって収入(不労所得)を増やし、支出を減らし、きちんと貯蓄を行い、毎年の生活をまかなっていくというものです。

 例えば年間の生活費が300万円の場合、年間の資産運用で300万円の利益が出れば、計算上は資産を減らさずに、資産運用の収入だけで暮らしていけることになります。

 ユリさんは完全なFIREを目指しているわけではないと思いますが、仮定の話として、FIREを実現するためのルールについてお話しします。

 FIREを実現するために必要な資産(FIRE資産)を計算するのに用いられるのが「4%ルール」。簡単に言うと、「年間の生活費の25倍の資産を運用すれば、年利4%の運用益で生活費をまかなえる」というルールです。つまり、年間の生活費が300万円ならば、その25倍の7500万円のFIRE資産を運用すればいいというわけです。この場合の運用益は7500万円×4%=300万円ですから、年間の生活費と釣り合いますね。上記のケースで完全FIREを目指す場合には、リタイアする時点で7500万円の資産が必要ということです。現実的にはかなりハードルの高い話ですね。

 もっとも、4%ルールの「4%」はあくまで米国の株式市場を元に過去のデータからはじきだされた数字ですので、必ずしも4%で運用が続けられるという保証はありません。年4%の運用ができなければ不労所得が減ってしまうので、そのときは支出を削るか、働くなどして他の収入で補う必要が出てきます。それでも足りない場合は、資産を取り崩すことになります。

 ユリさんは仕事柄数字に強く、資産運用をしっかり行ってきたということで、現時点で資産は3000万円あります。FIREを目指すかどうかはさておき、ユリさんが希望するように、ゆるく働きながら生活が成り立つのかどうか見ていきたいと思います。

働き方をペースダウンして収入が減った場合も、しっかり増やした資産を頼りに生活は成り立つのか
働き方をペースダウンして収入が減った場合も、しっかり増やした資産を頼りに生活は成り立つのか