定年後を見据えた働き方、生き方を意識し始めたシングル会社員の悩みに、「キャリア」と「お金」の両面から実践的なアドバイスをお届けします。相談者は前回に続き、勤務先の希望退職募集の対象になった40代のカナコさん。キャリア編では「退職後の展望を持つことが先決」というアドバイスがありましたが、実際に早期退職を決断するとき、お金の面で注意すべきことは? ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんが解説します。

相談者No.6 カナコさん(44歳、メーカー)

大手メーカーである勤務先が、40歳以上の従業員を対象に大規模な希望退職の募集をすると発表。「まさかうちの会社に限って……」とショックを受けるのもつかの間、同期入社の友人は募集に応じて早期退職するという。友人はもともと定年まで勤めるつもりはなく、FIREに憧れていたというが、カナコさんにとっては青天のへきれき。そういえば最近、「45歳定年制」が話題になっている。希望退職というのは表向きで、応じなければ肩をたたかれるのだろうか。入社以来、この会社一筋で頑張ってきたのに、どうしたらよいのか分からない。

お金編アドバイザー 高山一恵さん(ファイナンシャルプランナー)

早期退職は将来の年金額に少なからず影響

 カナコさんはもともと早期退職をするつもりは全くなかったそうですが、会社の希望退職募集の対象に入り、同期は募集に応じると聞いて初めて「自分も早期退職したほうがいいのだろうか」と考え始めたとのこと。では仮に早期退職をする場合、お金の面ではどんな点に注意すべきでしょうか。

 まず考えなくてはならないのが、「将来の公的年金が減るリスク」です。日本の公的年金制度には、国民年金と厚生年金の2つがあります。会社員・公務員として働いている間は、両方に加入しています。

 早期退職に限った話ではありませんが、勤務先を退職しても、60歳までは国民年金に加入する義務があります。国民年金保険料を40年間(480カ月)すべて納めると、65歳から満額の国民年金(老齢基礎年金)が受け取れます。2021年度の老齢基礎年金の満額は78万900円です。

 一方、退職すると厚生年金の加入資格は失います。厚生年金で受け取れる老齢厚生年金の金額の計算はやや複雑なのですが、基本的に厚生年金に長く加入し、保険料をたくさん納める(=平均年収が高い)ほど増えます。ですから、早期退職することで将来の年金額が減ってしまうわけです。

 では、実際にどれくらい年金が減るのでしょうか。下の表は、在職中の平均年収と厚生年金加入期間から算出した、65歳以降に受け取れるおおよその年金額(国民年金の満額+厚生年金の目安)をまとめたものです。

 例えば、平均年収400万円の方が35年間働き、58歳で会社を退職したとします。このとき、老後の公的年金の金額は上記の表から年間約154万円と分かります。これが、仮に48歳で早期退職した場合には、年間約132万円になります。

 年金は原則、65歳から生涯にわたって受け取れます。90歳まで生きると仮定すると、年22万円の差は、25年間で550万円になりますので、この差は大きいといえるでしょう。