学びで「脱・いい子」 フラフラ人生も肯定できるように

 芸術全般への興味から、京都造形芸術大学通信教育部の芸術学科芸術学コースに41歳で入学。さまざまな授業を受ける中で、特に興味を引かれたのが「地域学」でした。

 地域学とは、ある地域を総合的に研究する学問。地域学のテキストで「人間には本来、住むのとは違った『動くという生き方への志向』がひしめいている」という担当教授の言葉に触れます。

 「『動くことが前提の生き方』との一言に衝撃を受けました。幼い頃から長女の私は周囲の期待に応えようと頑張るいい子。だからこそ『なぜあなたは、一つの会社に落ち着くという、みんながやれることができないの?』という親の言葉、そして世間的に見て、自分のこれまでを『フラフラ人生』と否定的に捉えてきました。でも地域学の教授の言葉で、『欲すれば動くのもあり!』と自分を肯定でき、気持ちが楽に。常識に縛られず、自分の直感に従って行動しようと思うようになりました」

『地域学』(責任編集/中路正恒)など、須田さんが影響を受けた本
『地域学』(責任編集/中路正恒)など、須田さんが影響を受けた本

 入学から5年目の2014年、地域学のスクーリングで沖縄県八重山諸島を訪れた須田さんは、そこで、八重山上布という美しい織物に遭遇。その糸が、ちょまだと知ります。その時、フラッシュバックしたのが、かつて奥会津地方を自転車で走った際、昭和村の道の駅で偶然見つけた、からむし織でした。

 「目にしたのはわずか数分なのに、素朴な美しさが焼き付き、離れなかった。以来、疲れたときなどに、昭和村の自然の中、からむし織を学ぶ『織姫※』と呼ばれる女性たちのイメージが頭に浮かぶことがありました。北の福島と南の沖縄という2つの地に、ちょまを栽培し、機で織る文化が残っている。それを知り、ずっと決まらずにいた卒論のテーマをちょまにしようと心が決まった。そのためには、からむしの産地である昭和村を訪ねなくてはと思いました」。

自宅がある大芦集落。冬、村は一面の深い雪に包まれる。「不思議なくらいに雪景色が好き。真っ白な雪に覆われる風景は気持ちが落ち着くし、その美しさにうっとりします」
自宅がある大芦集落。冬、村は一面の深い雪に包まれる。「不思議なくらいに雪景色が好き。真っ白な雪に覆われる風景は気持ちが落ち着くし、その美しさにうっとりします」

※過疎化が深刻な問題となっている昭和村は、交流人口と定住人口を増やし、からむし織の織り手を育成するため、1994年に「からむし織体験生制度」をスタートした。この制度で村にやって来た女性たちのことを、村では「織姫」と呼んでいる