地方に移り、新たな生活をスタートさせた「移住の先輩」に移住成功の極意を聞く連載。今回は、東京と実家のある山口県・宇部市で2拠点生活を送った後、完全に移住をした女性のストーリーです。子どもが巣立ち、離婚を経験して見えた理想の暮らしとは? (下)をお届けします。

(上)コロナ禍で2拠点→宇部へ移住 還暦目前に見つけた目標
(下)離婚後に見えた理想の暮らし 最もいい移住の形とは? ←今回はココ

 東京・吉祥寺で18年間、セレクトショップやギャラリーを営んできた谷川(たにかわ)涼子さん(61歳)。実家のある山口県・宇部市との1年半に及ぶ2拠点生活中に、念願のギャラリー&カフェ「GLYCINES」(グリシーヌ)をオープン。新型コロナウイルス禍の2021年に吉祥寺を引き払い、完全にUターンした。

 移住後の暮らしで役立ったと感じているのが、夫の海外転勤に帯同し、慣れない異国の地で家族をサポートしながら、家事と育児をこなした海外で暮らした経験だ。「大変なこともたくさんありましたが、その経験は、日々起こる予想外の出来事も楽しみながら乗り越える力をくれたと感じています」と谷川さんは振り返る。

離婚後の一人暮らしが、望む暮らしの原点に

 夫の海外勤務を終えて日本に帰国後、谷川さん夫婦と子どもたち一家が住み始めたのが吉祥寺だった。フランスにいた頃の友人から「雑貨や服飾を扱ってみては」と勧められ、セレクトショップを開いた。「それまで専業主婦でしたから、仕事のやり方も分からなかったけれど、フランスに買い付けに行けるという動機に突き動かされて(笑)」

 雑貨や服飾は人気を呼び、すぐに講師を招いて店の一角でフランス語教室も開こうという展開に。気付けば12年があっという間に過ぎていた。「13年目には、ものを買い付けて売るのはもういいかなと、ギャラリーに業態を変えました」

カフェのキッチンに立つ谷川さん。スタッフの斉藤千鶴さん(右)は、谷川さんが2拠点生活を送っていた1年半の間、吉祥寺のギャラリー運営を任せていた人。斉藤さん自身も現在、東京との2拠点生活を送る
カフェのキッチンに立つ谷川さん。スタッフの斉藤千鶴さん(右)は、谷川さんが2拠点生活を送っていた1年半の間、吉祥寺のギャラリー運営を任せていた人。斉藤さん自身も現在、東京との2拠点生活を送る

 仕事は順調に続いていたが、夫とは2年間の別居を経て2017年に離婚。現在、息子は東京で、娘はオーストラリアで、結婚生活を送っている。「子どもたちも巣立ったので、離婚後に吉祥寺で一人暮らしを始めてみると、これがものすごく楽しくて。東京の気ままな生活は本当に捨てがたい。孤独と言ってしまえば孤独かもしれないけれど、望む暮らしの形が見えてきて、生きる活力が湧いてきたのもこの時期でした