今あるものを大切にして、持続可能な形に変える

 実家の所有する古いビルを改装するにあたっては、地元の同級生の設計士に仕事を頼んだ。「今思うと、絶妙なタイミングなんですけど、2017年に中学の同窓会が地元であり、40年ぶりに同級生に再会していたんです。そのときの一人に設計士がいたので、彼に話を持ちかけました。細部までビシッと決めたスタイリッシュな空間にはしたくなかったんです。使う側の自由を制限されてしまうように思えるから。

 そこで、『今あるものをできるだけ生かしたい。使う人によって変化しつつ、人と人をつなぐ場にしたい』と目指すイメージを伝えたところ、すんなり分かってくれて。もし同窓会がなかったら、誰に頼んでいいかも分からず、途方に暮れていたかもしれません」

煙突群の向こうに夕日が沈むのを眺めるのが好き。テラスはお気に入りの場所
煙突群の向こうに夕日が沈むのを眺めるのが好き。テラスはお気に入りの場所

 設計士を軸に、力を貸してくれる人も増えていき、3カ月後には谷川さんらしいセンスが詰まった空間ができあがった。日々、広がっていく地元の人との交流は、移住後にできた大切な財産だ。振り返って「移住成功の秘訣」を考えるとき、真っ先に浮かぶのは、「周りに否定されてもブレなかったこと。最初に感じた自分の感覚を信じたこと」だ。「どんなことにも賛同してくれる人もいればアンチもいるのだから、否定的な意見は参考程度にして聞き流すことも時には必要。私にそんな“鈍感力”があってよかったです」と笑う。

 「まだ使えるものを取り壊さずに大切にして、それを長く使える形に変える」という谷川さんの「やりすぎないリフォーム」は、持続可能な取り組みが求められる今の時代にも合っている。