東京の暮らしを簡単には捨てられない

 「移住のハードルは、本当に、本当に高かった。大学も就職先も東京で、フランスとシンガポールにも行きましたが、その後もずっと東京。『移住したら子どもとの生活も楽しめるだろうな』と漠然と夢を思い描くものの、『仕事はどうする?』『生活はどうする?』と。現実的な問題を考えると、東京の暮らしを捨てきれないでいました」(裕子さん)

「地域おこし協力隊」の隊員に選ばれ、移住を決意

 そんな裕子さんの背中を押したのが、「地域おこし協力隊」の存在だ。

 2018年1月、東京で行われた福井の移住フェアに夫婦で参加し、そこで、福井市の「地域おこし協力隊」について話を聞いた。「地域おこし協力隊」とは、都市圏から過疎地域に住民票を移動し、生活の拠点とした人に対し、自治体が地域おこし協力隊員として委嘱する総務省の制度。任期は最大3年、経費を含めて年間一人当たり400万円を上限とする報酬が支払われる。都市圏で得たキャリアや知見、新しい視点を町おこしに取り入れるというものだ。

 「隊員に選ばれたら、移住先でも仕事がある。しかも、殿下地区から10分ほどの越前海岸に市のサテライトオフィスが開設するという。移住先でも仕事がある、できる。それならば……と地域おこし協力隊に応募したところ、幸いにも隊員に選んでいただき、一気に移住が現実化しました。

 移住すべきかどうかを悩んでいる最中、上司から『不安に思うのは、新しいステージに挑戦しようとしている証拠だよ』と言われ、ふと吹っ切れた時があったんです。人生にはアンラーニング、一旦白紙に戻して、学び直すための時間も必要だなと思えました。『そうだ、まずは山村留学のつもりで行ってみよう』と」(裕子さん)

フランスとシンガポールに住んだことがある裕子さんだが「福井への移住のハードルは、本当に、本当に高かった」と振り返る
フランスとシンガポールに住んだことがある裕子さんだが「福井への移住のハードルは、本当に、本当に高かった」と振り返る