「都会を卒業して、田舎でゆったり暮らしたい」――こう思ったことがある人は多いのではないでしょうか。とはいえ、家族の説得、家や仕事探し、新たなご近所さんとのお付き合いなど、越えるべきあまたのハードルを前に「移住は夢物語」と諦めている人も多いはず。そこで、地方に移って新たな生活をスタートさせた「移住の先輩」に移住成功の極意を聞きます。2018年に福岡に移住した建築家の遠藤幹子さんは、30代から遊牧民のような暮らしを模索していたそうです。

(上)子育てする生活者としての経験が、仕事での強みになった ←今回はココ
(下)40代後半は介護で暗黒の3年 逃げ場だった福岡へ移住

27歳でオランダ留学&出産・子育て

編集部(以下、略) 遠藤さんは2018年、47歳のときに東京の住まいを引き払い福岡に拠点を移していますが、それまでの経歴もユニークですね。オランダで出産・子育てをすることになった経緯から聞かせてもらえますか。

遠藤幹子さん(以下、遠藤) はい、20代は駆け出しの建築家として手応えのある仕事を多く経験させてもらいました。だからこそ、もっと自分にインプットが必要だと感じて、海外留学を決意したんです。

 当時、仕事のパートナーでもあった交際相手が、「だったら結婚して一緒に行こう」と提案してくれて、1998年、27歳のときに結婚。そのままオランダに留学して、翌年には現地で娘を出産しました。

 オランダでは私が学業に専念して、彼が専業主夫を担当。子どもの世話も彼がメインでやってくれました。

建築家、空間デザイナーの遠藤幹子さん。オランダ留学中の出産、子育てを経て帰国。子育て経験を生かし、日本科学未来館や美術館、博物館など主に公共施設で、大人も子どもも楽しめる空間を多数手がける。福岡移住後に始めた趣味のマリンスポーツを楽しみながら、全国各地の案件に携わる
建築家、空間デザイナーの遠藤幹子さん。オランダ留学中の出産、子育てを経て帰国。子育て経験を生かし、日本科学未来館や美術館、博物館など主に公共施設で、大人も子どもも楽しめる空間を多数手がける。福岡移住後に始めた趣味のマリンスポーツを楽しみながら、全国各地の案件に携わる

―― 盛りだくさんのオランダでの留学生活ですね。

遠藤 オランダは子育ての環境がとても進んでいるんです。住宅街にあるごく普通の公園でも、動物と触れ合えたり、子どもたちが自由に遊べるデザイン性の高い遊具もたくさんあったりしました。外国人で知り合いもいない私のような母親でも、公園に行くだけで話しかけてもらえる。そんな懐の深さや受け入れてもらえる安心感がありました。

 生活者としてのそれらの経験から、自然と私自身の研究テーマは子育てと環境に絞られていきました。

―― 充実したオランダ生活から4年で帰国。どうして日本に戻ることにしたんですか。

遠藤 同じ建築家である夫がスリランカ在住の著名建築家のもとで学ぶことになったんです。でも、私はスリランカに行っても、仕事がありません。ちょうどオランダでやりがいのある仕事が決まりかけていたこともあり、私と娘はオランダに残るというのが当初の計画でした。

 同時に、お互いがやりたいことができるように、別々の道を歩もう、と離婚を選択。しかし、オランダで独立開業の道を模索したもののビザの問題で難しく、そのうち貯金も底をついてしまい、一度日本に戻ることにしました。