「都会を卒業して、田舎でゆったり暮らしたい」――誰しも、一度はこう思ったことがあるのではないでしょうか。とはいえ、家族の説得、家や仕事探し、新たなご近所さんとのお付き合いなど、越えるべき数多のハードルを前に「移住は夢物語」とあきらめている人も多いはず。そこで、国内の自然あふれる地方に移り、新たな生活をスタートさせた「移住の先輩」に移住成功の極意を聞きます。

(上)北海道東川に移住しカフェ経営「東京は味わい尽くした」 ←今回はココ
(下)東川町に単身移住。不安、不便、不足だらけでも毎日幸せ

「生粋の東京人」がたどり着いた東川町

 東京都生まれで北海道に移り住むまでの40年間、一度も東京以外で暮らしたことがない「生粋の東京人」だった岩淵亜夕子(47歳)さん。4年前、北海道東川町に移住し、現在はカフェレストランのオーナーとして一人でお店を切り盛りしています。「飲食の経験は基本的にアルバイトのみで、我ながらよくやったなって感じですが、北海道に来てから漠然と『いつか、お店をやりたいな』と思っていたんですよ」

 岩淵さんが選んだ東川町は、北海道の人口2位・約33万人が住む旭川市の中心部から車で南東に20分ほどの場所にあります。もちろん冬は雪深いのですが、のどかな田園風景が広がり、自然環境にも恵まれています。ここ20年で約2割も人口が増え、今、移住を希望する人から熱い視線を注がれる町です。

大雪山・旭岳に向かう道道1160号線にある、岩淵亜夕子さんのお店「ハルキッチン」。取材時は自家製シロップを炭酸で割った、絶品のジンジャーエールでもてなしてくれた
大雪山・旭岳に向かう道道1160号線にある、岩淵亜夕子さんのお店「ハルキッチン」。取材時は自家製シロップを炭酸で割った、絶品のジンジャーエールでもてなしてくれた

 子どもの頃から、コレ! と思うと突き進む性格で、写真が好きだったことから印刷を手掛ける制作会社に就職。当時、会社は成長段階にあり、新人ながら支店の立ち上げ、印刷工程の現場、役員秘書まで何でも経験。「初めての経験ばかりで楽しかったのですが、印刷業界はアナログからデジタルへの変革期で時代の変化も感じていました。ここで得た知識を次に生かしたいと思っていたとき、狭き門をくぐり抜けて運良く音楽会社に採用されたんです