「都会を卒業して、田舎でゆったり暮らしたい」――こう思ったことがある人は多いのではないでしょうか。とはいえ、家族の説得、家や仕事探し、新たなご近所さんとのお付き合いなど、越えるべきあまたのハードルを前に「移住は夢物語」と諦めている人も多いはず。そこで、地方に移って新たな生活をスタートさせた「移住の先輩」に移住成功の極意を聞きます。

(上)40歳目前でふわっと移住 未経験でも仕事が決まった訳 ←今回はココ
(下)東京→長野に移住で達成した2つのこと でも迷うのは…

大好きだった仕事を手放し、長野へ移住した理由は?

 うだるような暑さが続く東京から、特急電車で約2時間。八ケ岳と南アルプスの裾野に位置する諏訪地方の中心地・長野県茅野市。夏の大空の下、緑一色の稜線(りょうせん)が途切れることなく続きます。

 長野県は日本の都道府県で4番目の広さ。地域により気候は異なります。「中でも晴天率が高くて湿気が少なく、爽やかなエリアがここ茅野。冬は氷点下まで冷え込む一方、夏はほぼエアコンいらずで、すがすがしく気持ちがいい。自然に囲まれたこの場所に暮らせて幸せです」

 山の近くに住みたい……その思いが募り、10年近く全力投球した「大好きな仕事」を辞め、5年前、東京から茅野市に生活の拠点を移した田子直美さん(44歳)。自分の気持ちにうそをつかず、新天地でやりたいことをし、のびのび生きよう。そんな「ふわっとした理由」で決めた移住だったといいます。

2017年、東京都世田谷区から長野県茅野市に移住した田子直美さん。同市の地域おこし協力隊員を経て、「ちの観光まちづくり推進機構」の職員に。茅野の文化、歴史、暮らし方などを、旅人が地域の人々から学べる「ちの旅」の体験プログラム作りや運営を担当している
2017年、東京都世田谷区から長野県茅野市に移住した田子直美さん。同市の地域おこし協力隊員を経て、「ちの観光まちづくり推進機構」の職員に。茅野の文化、歴史、暮らし方などを、旅人が地域の人々から学べる「ちの旅」の体験プログラム作りや運営を担当している

新卒時にかなわなかった夢を、30代でつかむ

 新卒で大手コーヒーチェーンに入社。管理部門に配属され、スタッフの採用と教育を7年間担当した田子さん。同社を辞め、飛び込んだのは「新卒時に熱望していたものの、採用に至らなかった」ブライダルの世界。「ウエディングプランナーになるという長年の夢を諦めきれず、再挑戦を決意しました」

 ただ、人気の業界だけに「30歳直前の未経験者」が簡単に入れるほど甘くはなく、ホテルやブライダルサロンの面接を受けまくるも撃沈。「唯一、ご縁があった」のが、生地屋から事業転換し、格安挙式を請け負う家族経営の小さな会社でした。

 「扱うのは、衣装、ヘアメイク&着付け、写真、挙式料込みで5万円ほどのパックプラン。映画に出てくるようなプランナーに憧れていた私にとっては、イメージと違うかもしれないという思いを抱えての面接でしたが、ドレスのデザインを担当する先生(共同創業者兼デザイナー)のセンスとバイタリティー、温かい人柄にひき付けられてしまいました」