仕事のクライアントには、時間をかけて根回し

―― 移住開始からおよそ1年間、亜紀さんは真さんが暮らす芦川の新居と、東京のマンションとを行き来する2拠点生活を送りました。

亜紀さん その間に、東京の企業研修やコンサルタント仕事のクライアントと、移住後も仕事を続けるための環境を整えました。顔を合わせずに行える打ち合わせやコーチングはビデオ通話で行い、詳細を詰める必要がある会議は、上京して行いたいと伝えて了承を得ました。また東京のマンションは賃貸に回し、家賃収入を得られるようになりました。

―― 真さんは、地方創生に携わる人材を育成する、新たな仕事を獲得。山梨県や東京など複数の大学でコミュニティデザインの授業を受け持つほか、笛吹市の職員を対象とした、地方創生や市民協働のワークショップも担当することになりました。

「土地のルール」を守ることで、人間関係もスムーズに

―― 近所の畑を借り、念願だった無農薬の野菜作りもスタート。野菜や手料理をお裾分けしたり、互いの家を気軽に行き来したりするご近所さんが増え、「スムーズに集落に溶け込めた」という2人。心掛けていたことはあったのでしょうか?

真さん その土地のルールを知り、それに合わせて行動してみることですね。例えば都会なら誰でも指定のごみ収集所にごみを捨てられますが、地方では、捨てていいのは自治会員だけということも。財源が少ない地方では、収集費用の一部が自治会費で賄われているケースも多いんです。

 一見理不尽に思えるルールにも、それなりの理由があったりする。そこに目を向けず、都会の当たり前を持ち込むと、あつれきの原因になりかねません。

亜紀さん 「地方ルール」に詳しい真さんのアドバイスで、移住当初は私が東京に行くとき、車でごみを持ち帰るようにしていました。後日、仲良くなった近所のお年寄りに「勝手に捨てず、偉かったね」と言われ、ルールを知っていてよかったと思いました。

―― そして移住の4年後、当初は思いもよらなかった「農家民宿を開業する」ことに。2人が下した大きな決断を、後編でお届けします。

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改修費は200万円。限界集落へ移住後、農家民宿を開業

◆変更履歴:本文中の「月々のローン返済額を上回る家賃収入を得られる」を「家賃収入を得られる」に、「移住の翌年、農家民宿を開業」を「移住の4年後、農家民宿を開業」に修正しました(2019年7月31日)

取材・文/籏智優子 写真/佐藤正純