―― 亜紀さんの夫・山本真さんは、山梨県清里の宿泊研修施設で、企業研修やイベントの企画運営を20年以上担当してきました。亜紀さん主宰のワークショップを真さんがサポートしたことを機に出会った2人は、3年の交際を経て、結婚を決意。新生活を芦川で送りたいとの亜紀さんの提案を、真さんも快諾しました。

真さん 現在のヒト、モノ、カネの東京への一極集中は、自然災害などのリスクマネジメント上も解消されるべき。それには地域単位で経済が循環し、人々が生活していける仕組みが必要です。以前の仕事もやりがいはありましたが、それ以上に、亜紀さんと地方創生に取り組みたいとの思いが強まりました。

 結婚を決めたのは、ちょうど前職を辞めたタイミングで、正直、住むのはどこでもよかった(笑)。高齢者率65%の芦川は日本中にある限界集落の縮図。地域創生の実践を積み、ロールモデル作りを行うには適した場所だと思いました。

「空き家だらけ」なのに、口コミ頼りの物件探しは四苦八苦

―― 一見すると、集落は空き家だらけ。ところが家探しは難航しました。

亜紀さん 町に不動産屋はなく、空き家の所有者の多くが芦川を離れているため、誰に連絡すれば借りられるのか分からない。「孫が甲府に住んでいて、貸したいらしい」などの口コミが唯一の情報源で、月に1軒、内覧にこぎ着けられればいい方でした。「築70年の平屋を家賃2万円で貸してもいいという人がいる」と、聞いたのは家探し開始から半年後。「心変わりされないうちに」と、判子を持って東京から飛んでいき、3日後には賃貸契約を済ませました。

 新居は土間の奥に並んだ4つの和室を縁側が取り囲む、昔ながらの田の字型の間取り。土間に竈(かまど)があるだけで、水道設備もキッチンもなく、浴室とトイレは母屋の外。下水道を敷設し、キッチン、トイレを新設する改修工事を300万円かけて行いました。

真さん 地方の人手不足は深刻で、予想外に工事に時間がかかり、入居できたのは着工から半年後の2013年12月。和室の畳をフローリングに変えるなどの工事は、住みながら自分たちで行いました。

亜紀さん もともとDIY好きな真さんは、プロ仕様の電動工具まで持っていて(笑)。工具の扱いも手慣れていて、すごいなあと感心しました。

築70年の平屋は、キッチンがない、くみ取り式のトイレが外にあるなど、すぐには住めない状態だった
築70年の平屋は、キッチンがない、くみ取り式のトイレが外にあるなど、すぐには住めない状態だった
畳をフローリングに変える、トイレを解体するなど、友人の手も借りてできるだけ自分たちでリフォームした
畳をフローリングに変える、トイレを解体するなど、友人の手も借りてできるだけ自分たちでリフォームした
畳をフローリングに変える、トイレを解体するなど、友人の手も借りてできるだけ自分たちでリフォームした