「都会を卒業して、田舎でゆったり暮らしたい」――こう思ったことがある人は多いのではないでしょうか。とはいえ、家族の説得、家や仕事探し、新たなご近所さんとのお付き合いなど、越えるべきあまたのハードルを前に「移住は夢物語」と諦めている人も多いはず。そこで、地方に移って新たな生活をスタートさせた「移住の先輩」に移住成功の極意を聞きます。

(上)50代で「家族解散!」夫と伊東に移住、自分時間を満喫
(下)コロナ禍に伊東へ移住 成功の鍵は自分から飛び込むこと ←今回はココ

 2020年の夏、夫とともに東京から静岡県伊東市の別荘地に建つ、築35年の一戸建てに移住したヘアメイクアップアーティストの木村智華子さん(56歳)。50歳を過ぎたころ、「いったん身軽になる」ために家族4人で住んでいた持ち家を売却。家財道具の3分の1を処分し、賃貸物件での暮らしを経てからの本格的な移住でした。「身軽になる」という準備期間があったとはいえ、決断してから移住までの期間はなんと1カ月半。内見をしたその日に、物件の購入を決断しました。

2時間半の在来線移動も、移住で得られた至福の時間

 伊東に転居して即座に受けたのは、古い別荘物件ならではの洗礼でした。前オーナーから、家の状態に関する申し送りは受けていたものの、入居後、思わぬ損傷が明らかに。「屋根は異常なしと聞いていたのですが、雨漏りの危険性があると判明し、台風シーズンを前に大急ぎで修理しました。リビングの床にもへこみが見つかり、近々、張り直す予定です」。前オーナーは、年に数日、訪れるだけだったため、屋根や床の傷みに気づいていなかった様子。「中古の別荘物件は、暮らして初めて不具合が判明するケースもある。それを踏まえて購入する気構えが必要と分かりました

 現在、東京に行く頻度は週2~3日。移住後に変わったのは、「自分にとって心地いいか」の物差しを持ったこと。その物差しで仕事や付き合いを選ぶようになり、「やめておけばよかった」と後悔するストレスが一切なくなったと言います。

 「新幹線は早過ぎてつまらない」と、移動は主に在来線。都心までの約2時間半は、読書、メール返信、うたた寝をして過ごすそう。「慌ただしい日常を忘れ、のんびり。移住したからこそ得られた至福の時間です」

前オーナーの手で植えられた夏みかんがたわわに実る。「みかんの花は、ジャスミンみたいな甘い香りがする。それも移住して初めて知ったことです」
前オーナーの手で植えられた夏みかんがたわわに実る。「みかんの花は、ジャスミンみたいな甘い香りがする。それも移住して初めて知ったことです」