紅茶文化と地域の特色を融合させたい

 「(東京の暮らしに届かない)残りの20点は、自分のこれからの努力やチャレンジで埋まっていくいう楽しみがあります。今、私が考えているのは、紅茶という英国が育んだ文化と大館の特色を融合させたいということ。それは都会ではなく、このような地域だからこそ可能なのではないかと思うようになりました。たとえ海外の文化であっても、その土地で育てていくうちに地域ならではの付加価値が生まれるのではないかと思っています」

 今、斉藤さんの興味があるのは、子どもの頃は見向きもしなかったという地元で採れる野菜や山菜だ。初夏を迎える大館市ではさまざまな自然の味覚が食卓を彩る。かつて紅茶から英国の歴史や文化にも興味を持ったように、斉藤さんは、今、地元の食材やその文化的背景に興味津々で、野菜や山菜を求めて店に出掛けることが増えたという。

 「山菜を自分で料理して食べるなんて、以前なら考えられなかった。地元の食の豊かさに心が引かれます」

 そうすると、これは全くの例えばなのだが、将来は斉藤さんによる紅茶と地物野菜とのコラボレーションなどというものも出てくるのかもしれない。

店内にあるビンテージのカップボード。下段中央にある青いカップは1995年に英国で購入したアンティークのティーカップ。斉藤さんがえりすぐったカップが飾られていて、眺めているだけで楽しい
店内にあるビンテージのカップボード。下段中央にある青いカップは1995年に英国で購入したアンティークのティーカップ。斉藤さんがえりすぐったカップが飾られていて、眺めているだけで楽しい
店内にあるビンテージのカップボード。下段中央にある青いカップは1995年に英国で購入したアンティークのティーカップ。斉藤さんがえりすぐったカップが飾られていて、眺めているだけで楽しい

地方は女性の起業サポート体制が充実

 暗黒時代は、地元の悪いところだけが見えていたという斉藤さん。それを乗り越えた今、女性にとって地方移住はメリットが結構あると思うようになった。

 その一つは、女性にとってチャレンジしやすい環境が整っていること。「女性のチャレンジを支援する制度が思った以上に充実しています。自分で情報を探す必要がありますが、市の商工課や商工会議所に相談に行くと実に丁寧に対応してくれて、開業準備の気持ちの負担が軽くなりました。そこに男尊女卑はありません。女性起業・創業を増やすことに力を入れているらしく、担当者は皆さんとても意欲的で私もやる気が増しました」

 もう一つは年齢に対する意識だ。都会で会社生活をしていたときは、定年の年齢である60歳までが前提の世界なので、40代はもう若いとは言えない。転職活動をすると年齢が不利な条件になり、気持ちの沈む経験をしたこともあると斉藤さん。ところが、地方には高齢者が多く、特に大館市は高齢化率(65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合)が約4割と全国平均よりも高いため、40代~50代はまだまだ若手という感覚が強い。「若いからまだまだこれからだね、と言われることが不思議と多く、なんとなく若返った気分になれました(笑)。これからもっといろいろなことに挑戦できるかもしれないという前向きな気持ちになれます」