「都会を卒業して、田舎でゆったり暮らしたい」――誰しも、一度はこう思ったことがあるのではないでしょうか。とはいえ、家族の説得、家や仕事探し、新たなご近所さんとのお付き合いなど、越えるべき数多のハードルを前に「移住は夢物語」とあきらめている人も多いはず。そこで、国内の自然あふれる地方に移り、新たな生活をスタートさせた「移住の先輩」に移住成功の極意を聞きます。
(上)結婚をきっかけに25年ぶりUターン 待っていた暗黒期
(下)暗黒期を経て気づけた、地方移住の意外な2大メリット ←今回はココ
結婚を機に、47歳で秋田県大館市にUターンした斉藤由美さん(53歳)。移住して1年後に訪れたという「暗黒時代」を乗り越えるきっかけは、「地方は物件が安いからお店を持つことができる」と気づいたことだった。
移住人生の駒を進めた「貸店舗」の張り紙
2016年10月のある日、商店街を歩いていたら「貸店舗」の張り紙を見つけた。「地方は物件が安い」というメリットを知ってからほどなくのことだ。そこはもともと知人が飲食店を開いており、以前入ったことがあって間取りなどは分かっていた。
「早速店内を見せてもらったら、自然にイメージが湧いてきたんです」
ここにはビンテージのカップボードを置いて、真ん中にはお気に入りのアンティークのティーカップを飾って……と具体的な絵が次々と浮かんできた。「具体的な絵が浮かぶということは、自分にとっての運命」と斉藤さんはこれまで解釈してきた。「貸店舗」の張り紙を見つけ自分のビジョンが見えたとき、これまでのつらかった思いがすべて吹っ切れた。
「そうだ、紅茶専門店を開業しよう」。そう、決意したのだ。
斉藤さんがかつて副支配人を務めていたブルックボンドハウスは、紅茶専門店とティールーム、紅茶教室で構成されていたが、3つの要素をそのままこのお店の規模に合わせて展開すれば、あのときの経験が生かされるはずだと、斉藤さんは思い至る。
それからは早かった。翌日夫に相談し了承してもらい、大家さんと交渉もした。「そんなに用意周到ではない、でもやり始めるとパーッとやるタイプ」と斉藤さん。開業資金は「なけなしの自分の貯蓄から」。市の創業支援の補助金制度も活用した。この補助金は大きな助けになった。
相談したのは家族のみで、改装工事も秘密裏に進めた。話が漏れるとアドバイスという名の横やりが入るかもしれない。そうすると自分に迷いが生じてしまう。自分の決めた通りに自分のイメージに忠実に突き進むことを大事にした。
開店したのは、2017年4月。その頃、夫の実家から市内のアパートに転居し、夫婦2人だけの暮らしを始めた。移住してから2年半、生活を全面的にリセットして再スタートを切った。