「都会を卒業して、田舎でゆったり暮らしたい」――誰しも、一度はこう思ったことがあるのではないでしょうか。とはいえ、家族の説得、家や仕事探し、新たなご近所さんとのお付き合いなど、越えるべき数多のハードルを前に「移住は夢物語」とあきらめている人も多いはず。そこで、国内の自然あふれる地方に移り、新たな生活をスタートさせた「移住の先輩」に移住成功の極意を聞きます

(上)結婚をきっかけに25年ぶりUターン 待っていた暗黒期 ←今回はココ
(下)暗黒期を経て気づけた、地方移住の意外な2大メリット

47歳で結婚と同時に故郷へUターン

 どこにでもあるような地方都市の商店街の一角に、そのお店はある。しかし、扉を開けると外とは全く違う世界が広がっていた。英国調のカップボードに選び抜かれたティーカップが並び、コーナーには美しいフラワーアレンジメントが飾られ、そしてなんともふくいくとした紅茶の香りが店内を優しく満たしている。まさに紅茶が生まれた英国のティールームをほうふつとさせる。都会にだってこんなお店はそうそうないだろう。

 ここは、英国紅茶研究家・ライターである斉藤由美さん(53歳)が開いた紅茶専門店&紅茶スクール「イギリス時間紅茶時間」だ。東京で長らく紅茶専門家として活躍していた斉藤さんが、2014年に故郷である秋田県大館市にUターンし、2017年にここをオープンした。

2014年、東京から故郷である秋田県大館市に移住した斉藤由美さん。2017年、紅茶専門店&紅茶スクール「イギリス時間紅茶時間」(秋田県大館市馬喰町8-2)を開店し、紅茶の魅力を伝えている。店頭に飾られたユニオンジャックが営業中の目印だ
2014年、東京から故郷である秋田県大館市に移住した斉藤由美さん。2017年、紅茶専門店&紅茶スクール「イギリス時間紅茶時間」(秋田県大館市馬喰町8-2)を開店し、紅茶の魅力を伝えている。店頭に飾られたユニオンジャックが営業中の目印だ

 Uターンのきっかけは地元在住の9歳年上の男性との結婚。すてきなお店をオープンさせた斉藤さんに、周りの人は「夢がかなってよかったですね」と言うそうだが、当の斉藤さんは「夢だなんてとんでもない」と語る。

 「東京での生活が100パーセント気に入っていて故郷に帰ることは全く想定していませんでした。自分のお店を持ちたいと思ったこともなく……。移住後のさまざまな葛藤や『暗黒時代』をへて、ようやくこの自分らしい生き方にたどり着いた気がします」。暗黒時代と言うくらい移住後につらい時期があった。それを乗り越えて今がある。