「都会を卒業して、田舎でゆったり暮らしたい」――誰しも、一度はこう思ったことがあるのではないでしょうか。とはいえ、家族の説得、家や仕事探し、新たなご近所さんとのお付き合いなど、越えるべき数多のハードルを前に「移住は夢物語」とあきらめている人も多いはず。そこで、国内の自然あふれる地方に移り、新たな生活をスタートさせた「移住の先輩」に移住成功の極意を聞きます。

(上)アラフィフで山形県に移住 夫婦でワインを造りたい!
(下)移住先をワイナリー特区に 中小企業診断士の夫婦が挑む ←今回はココ

 おいしいワインを自分たちの手で生み出したい。同業の仲間として出会い、再婚した中小企業診断士の中川淑子さん(55歳)・憲一郎さん(52歳)夫妻は、2018年、夢を抱いて山形県天童市に移住。平日は中小企業診断士として働きながら、早朝や週末、ブドウ栽培に取り組む日々が始まりました。

週末長野に通い、ワイン作りの講座を受講

 とはいえ、2人に栽培の経験はなく、「本などで学んだ程度」。そこでブドウ栽培のほか、ワイン醸造やワイナリー経営の実践的知識を学べる千曲川ワインアカデミー(長野県東御市)に通い、週末に開かれる計30日間の講座を受けました。受講料は2人で60万円。さらに山形と長野を車で一往復するだけで交通費が1万5000円かかります。

 「その分、削れるところは節約しようと、ホテルに泊まらず、受講仲間たちとコテージで雑魚寝し、料理も自炊。毎晩いいワインをポンポン開けてしまいましたが(笑)、宿泊費は1人1泊800円で済みました。同じ志を持つ仲間たちと授業内容を振り返ったり、将来の夢を語り合ったりするのは楽しく、かけがえのない時間となりました」(淑子さん)

 持ち帰ったノウハウは畑で即実践。同時に、近隣の果樹農家から多くの『生きた知恵』を学びました。

「企業の歯車のまま終わるのは物足りなかった」という中川淑子さん・憲一郎さん夫妻。ともに30代で中小企業診断士資格を取得し、40代で独立。再婚後、50代でワイナリー経営という新たなフィールドに漕ぎ出した
「企業の歯車のまま終わるのは物足りなかった」という中川淑子さん・憲一郎さん夫妻。ともに30代で中小企業診断士資格を取得し、40代で独立。再婚後、50代でワイナリー経営という新たなフィールドに漕ぎ出した

 複数の持ち主から借りた畑の状況は千差万別。更地に近い状態だった畑は耕し直し、一から苗木を植えましたが、以前の持ち主が何十年も前に植えたブドウの古木がそのまま残っていたところも。

 「就農1年目に耕作放棄地だったブドウの木をせっせと手入れしていたら、ある農家の方が『この畑の木には、今年はもう手をかけない方がいい。秋まで育てても、いい実はならないよ』と。耕作放棄で荒れた畑の木は、ある程度畑が元の状態に戻ってから手を加えた方がいい。毎年しっかり手入れをしていないとよい実はならない、と教えてくれたのです。無駄骨を折るところでした。このあたりに住む人たちは親切で、通りがかりに軽トラックをとめては、あれこれアドバイスをくれる。経験から培った知識を惜しみなく授けてもらい、本当にありがたかったです」(憲一郎さん)