「都会を卒業して、田舎でゆったり暮らしたい」――誰しも、一度はこう思ったことがあるのではないでしょうか。とはいえ、家族の説得、家や仕事探し、新たなご近所さんとのお付き合いなど、越えるべき数多のハードルを前に「移住は夢物語」とあきらめている人も多いはず。そこで、国内の自然あふれる地方に移り、新たな生活をスタートさせた「移住の先輩」に移住成功の極意を聞きます。

(上)アラフィフで山形県に移住 夫婦でワインを造りたい! ←今回はココ
(下)移住先をワイナリー特区に 中小企業診断士の夫婦が挑む

 うっすらと雪が残る山々に周囲を囲まれたのどかな盆地地帯・山形県天童市。早春のブドウ畑に、つるを剪定(せんてい)するハサミの音が響きます。ブドウを自家栽培し、ワインを醸造したいと、2年前、夫の中川憲一郎さん(52歳)と共にこの地に移住し、「なかがわグレープファーム」を開いた淑子さん(55歳)。アラフィフ同士で再婚し、さいたま市で共に中小企業診断士として活躍していた2人が山形でワイン造りを目指すまでには、どんなストーリーがあったのでしょう。

「経営者の未来を応援したい」、中小企業診断士を目指す

 淑子さんは熊本県出身。大学卒業後、1987年に国内最大手のPCメーカーに入社。その後転職誌に関わった後、IT系ベンチャー企業ではマーケティングを、大手書店では社内システムの構築と保守運営を担当。その間に前夫と結婚し、2人の男の子も授かりました。

 次の勤務先に税理士法人を選んだのは、「家から近く、病児休暇も認められていて、子育てしながら働くには都合がよかったから」(淑子さん)。偶然に過ぎなかったというこの選択が、中小企業診断士を志す布石となりました。

 任された本来の業務は、社内情報システムの保守運用。「でもパソコン相手の仕事だけでなく、もっと人と触れ合いたくなりました」(淑子さん)。そこでまずは日商簿記検定2級に合格。外回りを担当する職員に同行したいと所長に直談判し、保守運用業務も完璧に行うことを条件にOKをもらいました。

 多くの中小企業を訪ねるうちに、経営者がさまざまな悩みやニーズを抱えていることを知った淑子さんは、経営コンサルタントの唯一の国家資格である中小企業診断士の取得を考えるように。税理士法人に勤めながら、なぜ税理士ではなく中小企業診断士を目指すようになったのでしょうか。

2018年、さいたま市から山形県天童市に移住した中川淑子さん・憲一郎さん夫妻。共に中小企業診断士として山形県内の企業に経営指導を行うかたわら、「なかがわグレープファーム」を開業し、ブドウ栽培に取り組む
2018年、さいたま市から山形県天童市に移住した中川淑子さん・憲一郎さん夫妻。共に中小企業診断士として山形県内の企業に経営指導を行うかたわら、「なかがわグレープファーム」を開業し、ブドウ栽培に取り組む