長野には「あるを尽くす」という言葉があるといいます。「町中にある空き家を生かしてみんなの役に立つサービスを作ったり、町の人に愛されてきた店を継承したりすることで、町が元気になる。そして結果的に自分も収入の柱を増やせたら一番ですよね。今は、町で愛されているご当地キャラクター『しらかばちゃん』を活用し、町の魅力の掘り起こしも始めています」

人に雇われず、身を立てられるお年寄りが理想

 都会を離れ1年半、変わったと感じるのはどんな点なのでしょう?

 「まずは息子がたくましくなったこと。昔はセミの抜け殻すら怖がって触れなかったのに、今では虫かご一杯にセミの抜け殻を集めるほど。こちらの子どもたちに、自然の中での楽しみ方を教えてもらっています。保育園にもすっかり慣れ、夕方迎えにいくと、『ちぇっ、お迎えが早すぎるよ』と舌打ちされちゃう(笑)。

 私も強くなりました。もちろん将来への不安がゼロになったわけではないけれど、都会の派遣社員だった頃のように、『仕事を切られたら』『地震が来たら』とおびえることはなくなりました。佐久穂町には、商店主や農家などの『人に雇われず身を立てている人生の先輩』がたくさんいます。

 元気に働く先輩たちを見ていると、子どもが巣立ち、おばあちゃんになっても、地域の人と助け合いながら仕事を続け、私もここで何とか生きていけそうな気がするんです」

皿に絵付けした後、電気窯で焼成し、模様を定着させれば完成。壁の付箋に書かれているのは、移住仲間と共に考えた絵皿のコンセプト。初心を忘れないよう今もそのまま貼ってある
皿に絵付けした後、電気窯で焼成し、模様を定着させれば完成。壁の付箋に書かれているのは、移住仲間と共に考えた絵皿のコンセプト。初心を忘れないよう今もそのまま貼ってある

取材・文/籏智優子 写真/吉澤咲子