「ありがとう」を聞ける喜びを思い出す
現在、地域おこし協力隊としての山上さんの任務は「移住支援」。移住希望者の相談に乗る、町の魅力を情報発信する、町内の空き家を賃貸・売買物件として登録するよう地元住民に呼び掛ける、の3つがメイン業務です。中でも東京時代に身につけた撮影の腕が生きているのが情報発信です。
「息子が通う保育園では田植えや稲刈りなど自然に触れる行事が日常的にあって、地域の方たちが総出で手伝ってくれます。町立の小中学校の給食には地元食材が使われ、生産者と一緒に給食を食べる機会も。地域一丸で子育てする町の姿勢は、孤独な子育てを強いられている都会人の琴線に触れ、移住を考えるきっかけになり得る。そう考え、保育園行事や四季折々の風景を親目線で撮影し、頻繁に発信しています」
山上さんの写真は今や、町の顔である広報誌の表紙や、移住のパンフレットを飾るまでになっています。
佐久穂町の地域おこし協力隊は、生活基盤を築いて退任後も地域に定着できるよう、副業が認められています。山上さんの副業は現在2つで、1つは出張カメラマン。ウエディングや七五三などの記念写真のほか、農家からの依頼で早朝の畑に出向き、旬の農作物を撮影したりすることも。
「グラビアの仕事と違い、直接ありがとうの言葉を聞けるのがうれしい。もともとカメラマンを志したのは、写真部だった高校時代に友人を撮ってあげると喜ばれたから。その原点に立ち戻り、撮影できるのが楽しいです」
地域貢献につながる皿作りを始める
もう1つの副業が皿の絵付けです。移住前に、移住セミナーで聞いた「移住先でやりたいことを明確にしておくべきだ」との話に納得。もともと絵付けに興味があったことから、転写紙や陶芸用の絵の具を使って磁器に絵付けをする工芸「ポーセラーツ」のインストラクター資格を半年かけて取得したそう。
「せっかくなら地域貢献につながる皿を作ろうと、町の象徴・茂来山がモチーフの小皿を試作し、移住仲間のドーナツ店オーナーに見せると、『店で売りたい』と言ってくれたんです」