奪った命をムダにしない ジビエカフェの開業を決意

 駆除経験を重ねるうち、「奪った命」に意識が向かうようになった清水さん。ジビエが食文化として根付き、高級食材とされる欧州と違い、日本では駆除された動物のほとんどが活用されずに捨てられています。「頭数が増えたのは耕作放棄などの人間の都合なのに、人間の勝手で駆除される。彼らの命を奪う以上、せめてきちんと食べるべきだと思うようになりました」。料理人だった父の影響で、清水さんは30代に調理師免許を取得済み。足助町で暮らして駆除に本腰を入れ、ジビエカフェを開こうとの思いが自然に浮かんだと言います。

 「足助町の人々は、当初からよそ者の私に『最近体調はどう?』『次はいつ来る?』と気さくに声をかけてくれた。ここでなら居心地よく暮らせそうとの思いも、移住を後押ししました」

 ただ家探しは難航しました。空き家は多いにも関わらず、地元の物件を扱う不動産屋はなく、当時は空き家バンクもほとんど機能していませんでした。小澤さんの口利きで、ようやく購入できたのは、築150年以上の古民家。空き家だった期間が長く、「家全体が傾き、畳はプカプカ」。そこで入居前に、ゆがみを直して床を張り替え、水回り設備を一新する大規模なリフォームを行いました。

築150年以上の古民家を全面リフォームし、住居兼カフェ「山里カフェMui」に(ランチは完全予約制、不定休)
築150年以上の古民家を全面リフォームし、住居兼カフェ「山里カフェMui」に(ランチは完全予約制、不定休)
シカの角や骨とともに、店の入り口には日本ジビエ振興協会会員証を掲げている
シカの角や骨とともに、店の入り口には日本ジビエ振興協会会員証を掲げている

 同じ愛知県内ながら、足助町から夫の勤務先までは車で片道約1時間半。「遠距離通勤を強いるのは心苦しく、私は内心、別居するしかないだろうと思っていましたが、『走り出したら止まらないのが潤子。オレがついていく』とすんなり移住を受け入れてくれました」。こうして清水さんは夫と2人、足助町での新生活に踏み出しました。

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狩猟→解体→カフェで提供 移住した町で動物と向き合う

取材・文/籏智優子 構成/市川礼子(日経xwoman ARIA) 写真/林直美