私には無理…それでも駆除に取り組むことに決めた理由

 狩猟免許は猟銃、わな、網など、猟の方法により4種類に区分されます。清水さんは足助町で伝統的に行われてきたわな猟による狩猟免許を取得。小澤さんに免許を取ったことを報告すると、すぐにわな猟のベテラン猟師を紹介され、修業がスタート。わなに動物がかかったと連絡を受けるたび、1時間半の距離を運転し、刈谷市からひとりで足助町に駆け付ける日々が始まりました。

 子どものイノシシがわなにかかったある日、「止め刺ししてみろ」と清水さんは師匠から槍を渡されました。「免許取得時に審査されるのはわなの扱い方までで、自分の手で動物を駆除するのはこの日が初めて。なんとか槍を突きましたが、槍から伝わってくる心臓の鼓動に耐えられず、『私には無理』と告げました

 それでも翌日以降も連絡はやみませんでした。矢のような催促を断りきれず、しぶしぶ田んぼ脇のわなにかかったイノシシの駆除作業に出かけた清水さんが見たのは、駆除を済ませた師匠に「これでまた畑を続ける気力がわいた」と、拝むように「ありがとう」を繰り返す農家の老夫婦。食肉処理施設まで追いかけてきて、お礼を伝えた農家もいました。

「動物が出現しやすいかどうかは、天候や時間帯などにも左右されます。猟のたびに結果をデータとして残すことで、最近ようやく傾向がつかめてきました」(写真提供/清水さん)
「動物が出現しやすいかどうかは、天候や時間帯などにも左右されます。猟のたびに結果をデータとして残すことで、最近ようやく傾向がつかめてきました」(写真提供/清水さん)

 獣害により意欲をそがれ、離農する農家は珍しくありません。その結果、耕作放棄地が拡大。人の手が及ばなくなった田畑や果樹園は格好の隠れ場所兼餌場となり、さらに鳥獣の個体数が増える悪循環に陥ります。被害額として数字に表れる以上に、獣害は農業に深刻な影響を及ぼしているのです。「それを防ぐ駆除が、いかに農家から感謝される仕事か実感でき、駆除に取り組もうと改めて決心しました」

 師匠の下でわな猟を学ぶ一方、鳥獣の生態に関する本を読みあさりました。また射撃場にも通い、駆除に携わる人や、関心を持つ人とのネットワークを構築。さらに刈谷市の猟友会にも所属しました。最初は「女性だからと侮られ、悔しい思いもした」ものの、イノシシを駆除している実績が知られると、仲間として受け入れられるように。やりで止め刺ししていることを心配した猟友会会長に、「銃を使うほうが危険が少ない」と強く勧められ、2016年には装薬銃と空気銃を扱える第1種猟銃免許も取得。わなを使った駆除だけでなく、銃を使った駆除も行えるようになりました。