「技術の進歩、変化の速さから距離を置こう」と退社

 そんな折、急成長を続ける東京本社では組織改編が急ピッチで進められ、晶子さんにはこの先の3つの選択肢を伝えられた。1つめはシンガポールに移籍して勤務を続けること。ただし、現在の給料保証は1年間という条件付き。2つめは階級と給料を下げて東京での業務に留まること。3つめはリストラに応じて辞めること。家賃水準も物価も高いシンガポールで給料が下がれば生活も大変になる。悩んだ末、晶子さんが選んだのは、13年勤めた会社を辞めるという道だった。

 世界的IT企業、しかも高待遇だったという職を捨てる決断はどこから? その疑問をぶつけると、それまで常に抱えていたという心境を打ち明けてくれた。

 「世の中がワープロからパソコンに変わるタイミングでずっと仕事をしてきて、昔は『プログラミングの天才』ともてはやされたある男性が中年になり、技術革新についていけず窓際族になっている現状を目の当たりにしました。自分もいつかは業界の変化のスピードについていけなくなるだろうなと思ったことが一つ。それと、会社の急成長で仕事が細分化され、必ずしもやりたい仕事ができなくなったということもありました。いずれは東京を離れてどこかへ移住して、宿や飲食の仕事をしたいという思いは、このころ芽生えたように思います」

「満足度は東京時代も80点、移住後は85点。東京に不満があったから移住したわけではないから。でも今は暮らすことが以前より楽しくなった」と晶子さん
「満足度は東京時代も80点、移住後は85点。東京に不満があったから移住したわけではないから。でも今は暮らすことが以前より楽しくなった」と晶子さん