大人が言っていたことはことごとく本当だった

 痛みは日増しに強くなった。インターネットも身近な経験者も皆口をそろえて「いつのまにか治る」と言うが、私の場合はそう単純ではないと確信する痛みである。着替えは不自由、入浴にも苦労し、寝返りも打てず、痛みで夜中に何度も目が覚める。寝不足が続いて、ついには病院行きを決意した。ただ、病院選びにかなり迷った。わが家の近所にはものすごく混んでいる整形外科と、ものすごくすいている整形外科がある。病院というのは混んでいるのも嫌だし、かといって患者が誰もいないのも不安になるのだ。以前、1杯7000円の毛ガニ購入を諦めた数日後に、3杯980円の毛ガニをスーパーで見かけた時に感じた気持ちと同じである。

 「もっとちょうどいい感じにしてくれ」

 結局、すいている方を選んだ。あっという間にレントゲンを撮り、あっという間に「五十肩ですね」と言われ、あっという間に注射を打たれた。

 「これ1本ですぐに治る人と全然効かない人とがいますね」

 というばくちのような注射であったが、たたられているかと思うくらいツイていない人間である。大方の予想通りそのばくちに負けた。

 ……と、つい五十肩について延々語ってしまったが、その頃考えていたのは、昔、大人が言っていたことはことごとく本当だったのだなということである。

 朝、目が覚めた時から疲れているとか、訳もなく体が痛いとか、油ものは食べられなくなるとか、小さい字は見えなくなるとか、酒を飲んだらすぐ眠くなるとか、若い頃は不遜にも「それって個人差じゃないの?」と思っていたことが、年齢とともにちゃんとやってくるのだ。「突如肩が痛くなり腕が上がらなくなる」なんて10代の頃には想像もできなかったのに、きっちりそうなった。目の前に、五十肩の扉が現れたのである。