答えは一つしかなかった

 迷子になったのは、デパートの中だった。それまで一緒にいたはずの母や伯母が、気がついた時にはこつぜんと姿を消していたのである。まるで神隠しのようであった。客観的に見れば私が隠されているのだが、本人にとってはあくまでも周りの消失である。

 「お母さん……」

 迷子になったと理解した瞬間、一気に泣きたい気持ちになった。私は臆病な子どもだったので、今まで子どもなりに親とはぐれないための努力というか、まあ要は「手か目のどちらかはお母さんから離さない」という心構えで人混みに臨んでいたのだが、その努力が一瞬の油断で無になってしまったのだ。よりによって旅先で。

 怖くて寂しくて悲しかった。でも、なぜかその怖くて寂しくて悲しい気持ちを他人に知られてはいけないと思った。店員さんと目が合いそうになると、わざと平気な顔をして通り過ぎる。そのくせ「誰かがお母さんのところに連れて行ってくれないだろうか」とも考えていた。動揺し混乱しながら、私は必死で母を捜した。

 商品ワゴンの陰をのぞく。いない。エスカレーターで別の階に降りる。いない。女子トイレも確かめる。やっぱりいない。階段も試着室も見た。いない。どこにもいない。お母さんはいなくなってしまった。

 胸が真っ黒に塗りつぶされたような思いがした。見知らぬ場所で、本当にひとりぼっちになったのだ。もうだめだと思った。ここが札幌なら歩いて帰るという手もあるだろう。でも青森からは無理だ。第一、間に海がある。どうしたらいいのか。考えれば考えるほど答えは一つしかなかった。

 「このデパートの中で一人で生きる」

 私は本気だった。親がいなくなってしまい、家に帰る方法も分からないのだ。ここで生きるしかないではないか。