いや、どうすんのよ、この家

 現在は母と2人。祖母を見送り、妹は結婚して家を出て、父も去年亡くなった。陽当たりがいいのは相変わらずだが、家は当然ながらあちこちガタがきている。トイレタンクを交換すれば階段、階段を修理すればテレビアンテナと、ここ数年もぐらたたきのように不具合が噴出している。去年の大風の日には、私の部屋の換気口の蓋が吹き飛んだ。外壁のプラスチック部分は既に劣化して崩れていたから、内側が吹き飛ぶことによって壁にぽっかり穴が開いた。部屋の中から夜空を見上げながら、「いや、どうすんのよ、この家」としみじみ思ったのである。

 父はよく「俺が死んだら最後はあんたのものになるから売ればいいよ」と言っていたが、不動産は父の会社名義で、「あんたのもの」になる道理など一切なかったため、結局、私が買い取った。その数年後、父は仕事の整理を何一つ、大事なことなのでもう一度言うけれども、何一つせずに死んだ。つまり1階には在庫を含めた会社のまるごとが残っているのであり、それをどうにかしないことには「売る」どころの騒ぎじゃないのである。整理には時間もお金もかかるし、何より面倒くさい。父が化けて出てくれたら文句の一つも言えるのに、怖気づいたのか夢にすら現れない。考えると憤死しそうになる。

 以前、トイレタンクを交換した時に、業者の人と交わした会話がよみがえる。

 「これでトイレはあと10年は大丈夫です」

 「え? 私、あと10年もここに住むの?」

 業者のお兄さんは笑っていたが、今や笑い事ではなくなった。それくらい残された仕事が多いのだ。今日もオイルサーバーが、そんな私の気持ちを代弁してくれている。

 ぃやあああああああああ。

文/北大路公子 イラスト/にご蔵