50代実家暮らし、お酒をこよなく愛する札幌在住のエッセイスト、北大路公子さんがお届けしてきた連載、今回でいよいよ最後です。高齢の母との暮らしや自身の五十肩との闘い、遠い日の記憶…などなど、大事件は起きないけれどなかなかどうして悩みの尽きない日常を軽妙な文体でつづってきた北大路さん。最終回の話題は、誰もが知っているあの国民的映画シリーズのお話です。

「男はつらいよ」シリーズの醍醐味は

 友人に誘われて寅さんを見てきた。映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』である。私と映画との付き合いは極めて薄いので、映画館に行くこと自体、実に3年半ぶりである。前回は、これまた友人に誘われた『シン・ゴジラ』だった。後ろの席の男性が、私の隣の肘掛けに猛烈に臭い足を載せたという悲しい思い出がある。

 寅さんと映画館で会うのも初めてだ。今まではもっぱら、テレビやビデオでばかり会っていた。少なくとも48作目、主演の渥美清氏が亡くなる前に作られたものまでは目にした記憶がある。ただし、細部はあやふやだ。なにしろ「マドンナ」が入れ替わるだけで、物語の構造自体は毎回ほぼ似たようなものなのだ。露天商として全国各地を巡っている「フーテンの寅次郎」が生まれ故郷の東京・葛飾柴又に帰り、おいちゃんやおばちゃん、妹のさくらを巻き込んで騒動を起こす。

 旅先で出会ったマドンナとはいい雰囲気になるものの、いざとなったら腰が引けたり、あるいは派手に失恋したりして、最後は傷心のまま再び旅立つ。多少の例外はありつつも、基本的には全作同じ流れだ。第1回から48回を大鍋に放り込んでぐつぐつ煮込み、どろどろに溶かしたものをもう一度固めて48等分しても、さほど違和感のないものが出来上がる気がする。

 そう、寅さんは変わらない。変わるのは我々である。年齢や立場や考え方が少しずつ変化していく自分を、変わらない寅さんを通して知る。それが「男はつらいよ」シリーズの醍醐味の一つなのだ。