寅さんはふいと消えてしまった

 毎年送られてくる寅さん宛ての納付書。昭和の時代の徴収は今ほど厳しくなかったとはいえ、放置するのは気が引けたであろう。ましてや、あの真面目な叔父夫婦である。無視もできず、彼らが肩代わりしていたに違いない。まったくご苦労なことであるが、いや待てよ、あの団子屋はもともと寅さんの父親の名義、ということはつまり今は寅さんのものであり、家賃代わりだと考えれば安いものだというか、やだ寅さんったら資産持ちじゃないの! と急に中腰になったりして、今、どの回を見直したとしても、もうマドンナとかどうでもいいのである。

 そんな大人になって見た、今回の「男はつらいよ」。22年ぶりの新作は、おじさんが好きでおじさんに憧れていた満男が、初恋の人と再会し、昔を思い出しながら思春期の尻尾をいまだに見え隠れさせていてぎょっとする……じゃなくて切なくなるストーリーだが、そこにもう寅さんはいない。自分の代わりに団子屋を守ってくれた叔父夫婦の介護問題も、古くなった家や店の改装問題も、自分の老後すらも見せずに、寅さんはふいと消えてしまった。我々にばかり年を取らせて、とうとう最後まで寅さんは変わらなかったのである。スクリーンに流れる回想シーンを眺めながら、時の中に去っていく寅さんの背中を想像した。昭和から平成にかけて、それぞれが自分の人生に多かれ少なかれ重ね合わせた映画の終焉(しゅうえん)を見届けた気がしたのである。

 それにしても満男、もう50にもなろうというのに、前髪下ろした上目遣いでうるうるしていて、あれはあれで大丈夫かと心配なのである(ひどい)。

文/北大路公子 イラスト/にご蔵