連載ではこれまで、介護が始まっても離職することなく、介護のプロとチームをつくって対応すべきであることや、そのために上司や組織には何ができるのかをお伝えしてきました。連載の最終回となる今回は、親が要介護状態になったときに、親も子も人生を諦めないために何が必要か、今から準備できることについて、仕事と介護の両立のプロである酒井穣さんに伺います。

(1)親に突然介護が必要になったら 情に厚い人こそ注意して
(2)介護離職を避けたい 上司と社員、人事が知るべきこと
(3)要介護=かわいそう、ではない 最後まで輝ける人生とは ←今回はココ

 介護が始まると、介護される側は気落ちして将来に不安を感じるようになり、生きる希望を失うことも少なくありません。今後、何をするにも必ず誰かの助けが必要になるからです。でも、障害のために自分ひとりでできることが減ったとしても、幸せに暮らすことは可能です。要介護者になってしまったからといって人生は終わりではありません。やりたいことを諦めることはない、と私は思うのです。

 介護が必要になってからも、人生は続きます。平均寿命から健康寿命を引き算すると、だいたい、介護とともに生きる年月は10年程度になります。10年もの期間、ただ気落ちしてばかりはいられないでしょう。生まれ持った障害と向き合いながら、自分らしい人生を送っている人も多数います。介護が必要になるような障害を持ったからといって、そこで人生は終わりではないのです。

 とはいうものの、介護が必要なかった頃と全く同じ生活や目標を追い求めるのは難しいケースも多いでしょう。その場合、要介護になってからの人生を幸せなものにするには、障害による制限のなかで、やりたいこと、達成したいことを見つけ直す必要があります。まず、サポートしてくれる介護のプロを見つけることが不可欠です。さらに頼れる先は複数持っておくことも大切です。

 私は、「介護」とは、日常生活の継続をサポートするだけでなく、要介護者が「生きていてよかった」と感じられる瞬間をつくることの支援だと考えています。まずは、そう気づかせてくれた一人の男性の話をしましょう。

ケース1:「やりたいこと」が要介護人生に輝きを与える

 その男性Aさんは、18歳から45年間ずっと同じ会社に勤め、趣味はみこしを担ぐこと。結婚する暇があるならみこしを担いでいたほうがいいと、休みになると全国の祭りを飛び回っていたそうです。ところが、定年まであと半年となったある日、帰宅して床に入ると経験したことのないような頭痛に襲われました。力を振り絞って救急車を呼んだところで記憶は途切れ――気がつくと病院のベッドの上でした。目覚めたときには、左手、左足がうまく動かず、すべての歯が抜け落ちていました。聞けば、自分は脳梗塞で危篤状態に陥っていたとのこと。この日からAさんの人生はガラリと変わります。