親に介護が必要になったら、ここまで育ててもらった感謝を込めて、仕事を辞め手厚く世話をしたい――。そんなあなたの優しさが、親も自分の家族も不幸にしてしまうリスクをはらんでいることに気づいているでしょうか。介護について知識がないという人にはぜひ知っておいてほしい、介護と仕事を両立させるべき理由と心構えについて、自身も介護歴30年と、長年介護に携わりながらキャリアを築いてきた両立のプロである酒井穣さんに教えてもらいました。

(1)親に突然介護が必要になったら 情に厚い人こそ注意して ←今回はココ
(2)介護離職を避けるために 社員と人事が知っておきたいこと
(3)要介護=かわいそうではない 最後まで輝ける人生とは

ある日突然、会議中に1本の電話が…

 介護はどんな風に始まると思いますか? 例えば、あなたが会議に出ている最中に、1本の電話が入ります。出ると「お母さんが倒れました。すぐに病院に来てください」あるいは「○○警察です。×××××さんが自分の家が分からないというので保護しています。あなたが娘さんですか? 迎えに来てください」などと言われます。突然のことで準備する時間なんてありません。電話がきたその瞬間から、介護はいきなり始まるのです。

会議中に入る1本の電話。「お母さんが倒れました。すぐに病院に来てください」。こんな風に介護は突然始まる(写真はイメージ)
会議中に入る1本の電話。「お母さんが倒れました。すぐに病院に来てください」。こんな風に介護は突然始まる(写真はイメージ)

 その後はこんな風に進んでいくでしょう。

介護生活初日:
母が倒れたと病院から連絡があり、すぐ来てほしいと言われる。慌てて駆けつけるも手術中のため、ほとんどすることもなく長時間ただ待ち続ける。どうやらその日は帰れそうにないので宿泊先を決め、上司に連絡を入れ、とりあえずあすも休みをもらうことを伝える。

介護生活2日目:
朝イチで病院に行き、主治医から「回復はするが今後介護が必要になる」と説明を受ける。入院時の保証人になるため、印鑑などを取りに一度自宅に戻るが、翌日も病院に行く必要があるため、もう1日休むことを上司に伝える。パジャマ、下着、歯ブラシといった入院に必要なものも買いそろえる必要がある。

介護生活3日目:
印鑑と入院用のパジャマなどを持って病院に行く。しかし、そこでは足りないものがあり買い足す必要があることが分かる。母親の意識が回復しないため、翌日も会社を休まなくてはならないと上司に連絡を入れると、「あまり休まれると困る」と遠回しに言われてしまう。(注:この上司の行為はケアハラに当たります)

介護離職する人が知らない3つの不都合な事実

 この先、介護のためにどのくらい時間が取られるのか分からないあなたは、介護しながら仕事を続けていけるのか不安になります。先の長くない親を世話して恩返ししたいという気持ちも生まれるでしょう。もしかしたら、職場では役職から外れて居心地が悪くなっていたから、この機会に仕事を辞めようと思うかもしれない――。こうして、先々のことまで熟考せずに離職してしまう人が少なくありません。でも介護離職は、介護される親やあなたの配偶者を含めた家族全員を不幸にしかねない危険な選択だと私は考えます。

 三菱UFJ リサーチ&コンサルティングの調査によると、介護を理由に仕事を辞めた人の6~7割が経済面、精神面、肉体面での負担がかえって増えたと回答しています。そこには、介護離職する人が知らない3つの不都合な事実があると私は見ています。それは「経済的負担の増加」「介護ケアサービスの受給資格の喪失」「素人による不慣れなケアが招く不幸」です。

出典:三菱UFJ リサーチ&コンサルティング『仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査』(平成24年度厚生労働省委託調査)
出典:三菱UFJ リサーチ&コンサルティング『仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査』(平成24年度厚生労働省委託調査)

 これら3つを順に説明していきましょう。