親がこの先、病気になったり介護が必要になったりしたときに備えて、元気なうちにいろいろ話しておくのは大事なことです。でも実際は、コミュニケーションをスムーズに取るのは難しいもの。「親のホンネ」を探りつつ、安心して過ごしてもらうために子ども世代はどう接すればよいのか。90歳を超えた母親と同居しながら、民生委員として多くの高齢者と接している介護・福祉ライターの浅井郁子さんと考えていきます。今回のテーマは「親の隠し事」です。

衰えていることを子どもに知られたくない

編集部(以下、略) 隠し事というと、借金などの話でしょうか?

浅井郁子さん(以下、浅井) 年齢を重ねていくにつれ、親にはさまざまな機能の低下が起こっています。そうした老化に伴う失敗や、衰えていること自体を子どもに知られたくないという隠し事のお話です。中には高齢になってからの借金もあるかもしれませんね。

―― なるほど、高齢者に特有の隠し事があるのですね。

浅井 年を取ると、記憶力や理解力が低下して注意力が散漫になりやすく、耳が遠くなるなど五感も鈍ってきます。そうなると、いろいろなことが面倒くさくなってくるんですね。慣れていたはずの作業に時間がかかり、計算ミスも起こる。今まで難なくできていたことがうまくできなくなってきて、できないのに「できた」とうそをついたり、曖昧な返事をするようになったりして、結果的に隠すことにつながっていくのです。

 認知症になっているわけではないので、本人には隠している自覚があります。要するに衰えを知られたくないのです。毎日の暮らしに大きな支障がなければさほど問題ないですが、判断力の低下によって特殊詐欺(振り込め詐欺)に遭ってしまったり、人にだまされてお金を失ったりしたら大ごとです。実際、オレオレ詐欺や還付金詐欺に遭う高齢者は後を絶ちません。警察によると、だまされた金額が高額ではない場合は、離れて暮らす子どもに被害に遭ったことを伝えない高齢者も少なくないそうです。

―― なぜ子どもに伝えないのでしょう?

浅井 話すと怒られると思っているからでしょう。言ったところで解決するわけでもないし、近所の人に知られてしまうのを恐れて警察に届けない人もいます。被害届を出していない高齢者は少なくないそうです。

 とはいえ、被害に遭ったことを自分の中だけにとどめておくのはつらいし、子どもに話して責められるのもつらい。昔の自分ならこんな詐欺に引っかかりはしなかったと自身の衰えにも腹が立つ。このような複雑な気持ちを抱えて苦しんでいる高齢の詐欺被害者は多くいると思います。

オレオレ詐欺に遭っても、被害額が大きくないと離れて暮らす子どもに黙っている高齢者も少なくないという(写真はイメージ)
オレオレ詐欺に遭っても、被害額が大きくないと離れて暮らす子どもに黙っている高齢者も少なくないという(写真はイメージ)