親がこの先、病気になったり介護が必要になったりしたときに備えて、元気なうちにいろいろ話しておくのは大事なことです。でも実際は、コミュニケーションをスムーズに取るのは難しいもの。「親のホンネ」を探りつつ、安心して過ごしてもらうために子ども世代はどう接すればよいのか。90歳を超えた母親と同居しながら、民生委員として多くの高齢者と接している介護・福祉ライターの浅井郁子さんと考えていきます。今回のテーマは「親子の価値観の違い」です。

価値観の違い…親の気持ちに寄り添えないこともある

編集部(以下、略) 高齢になった親の暮らしのサポートや介護などを行うようになると、関係が近づくことで、親子間の考え方や人生観の違いがネックになることがありそうですね。

浅井郁子さん(以下、浅井) 家事の仕方から生き方まで、親子といえども違いはあるし、確かにぶつかりやすくなるかもしれません。また、親からすると、子どもはいつまでも子どもなので心配もしますね。

―― 親になるべく心配をかけないようにと行動できることもあれば、そうはできないこともあると思います。例えば子どもが独身だったり、結婚していても子どもがいなかったりする場合、当人は楽しく生きているのに、親の価値観とは相いれなくて不満を言われたら、けんかになりそうです。

浅井 そういうケースでは、しょっちゅうぶつかっている親子もいれば、普段はそれほど口に出さない親でも、大病して入院したり、死期が近づいているように感じたりすると、「あなたを一人残すのは心配。無理にでも結婚させておけばよかった」とか、「子どもがいないと誰に世話をしてもらうの?」といった本音が出てしまうことはありますね。

―― 自分亡き後の子どものことを案じる親心ということでしょうか。

浅井 そうですね。ただ、私は子どもが親子関係をあまり特別なものに思いすぎないほうがいいと思うんです。親子であっても本当のことを言い合わないほうがうまくいくことがありますし、親から聞きたくないような本音を聞かされたときにいちいち傷ついていたらやっていけません。高齢の親との関係に理想を追い求めないこと、親に自分を分かってほしいと願って伝える努力をしすぎないことも必要ではないかと思うのです。

 私自身、母と何かで言い争いをしていたときに、「あなたは本当の苦労を知らないのよ」と言われたことがあります。そんなことを言われたのは初めてで、少し驚きました。「本当の苦労って何?」と聞くと「子育てしていないから本当の苦労は分からない」と。ああ、これは本音だなと思いました。本心は「あなたの子どもを見たかった」ということかもしれません。

―― その言葉はかなりショックだったのではないですか……?

高齢になった親の口からは、子どもの人生を否定するような本音が漏れ出ることも。「聞きたくない言葉」を聞かされてしまった子はどう対応すればいい?
高齢になった親の口からは、子どもの人生を否定するような本音が漏れ出ることも。「聞きたくない言葉」を聞かされてしまった子はどう対応すればいい?