親がこの先、病気になったり介護が必要になったりしたときに備えて、元気なうちにいろいろ話しておくのは大事なことです。でも実際は、コミュニケーションをスムーズに取るのは難しいもの。「親のホンネ」を探りつつ、安心して過ごしてもらうために子ども世代はどう接すればよいのか。90歳を超えた母親と同居しながら、民生委員として多くの高齢者と接している介護・福祉ライターの浅井郁子さんと考えていきます。今回のテーマは「親のお金」です。

リタイア後、旅行や趣味を満喫していたら…足りない!

編集部(以下、略) 今回は親のお金がテーマです。子どもにとっては、一番聞きにくい話題かもしれません。

浅井郁子さん(以下、浅井) 親のお金事情を子どもが知りたい理由は大きく分けて2つあると思います。1つは介護が必要になったり、施設に入居することになったりしたときに、費用をまかなえるのかどうか知っておきたい。もう1つは、「老後」の期間が長くなっても生活費が足りる暮らしをしているかどうか、確認しておきたいからです。

―― もし親がお金に困ってしまったら、子どもである自分がカバーすることになるんじゃないか、というのは気がかりな点です。自分の生活もあるし、なかなかできることではないですから。

浅井 それは親も同じように考えています。親が子どもに迷惑をかけたくない2大要素は、介護とお金。介護については子どものサポートを受け入れるけれど、お金のことで子どもには絶対に迷惑をかけたくないと思っている親がほとんどでしょう。

―― 親世代では、お金に関してどんな問題が起こりやすいのでしょうか。

浅井 仕事をリタイアすると、現役時代よりもどんぶり勘定になりやすい傾向がありますね。年金収入がメインの生活が始まっても、現役時代と同じ感覚でお金を使ってしまうのです。例えば、時間的に余裕ができて旅行や趣味に予定以上のお金を使ってしまうケース。介護が必要になったときに、あれ、お金が足りない! ということが起こるかもしれません。現役時代に高収入だった親の中には、生活レベルをなかなか落としにくい人もいるので要注意です。

高収入だった親の中には、年金収入がメインの生活になっても、現役時代と同じ感覚でお金を使ってしまう人も
高収入だった親の中には、年金収入がメインの生活になっても、現役時代と同じ感覚でお金を使ってしまう人も

―― それなりに蓄えがあっても危ないものですか。

浅井 老齢厚生年金の支給額は最も多くて月額30万円ほど。現役時代の収入ほどには年金収入に格差はないんですね。もちろん貯蓄額にもよりますが、毎月の生活費を補填する範囲を超えて預貯金を取り崩すことが多い生活が続いたら、危ないかもしれません。

―― 使ってしまう親は、自分ではその危なさに気づけない?

浅井 読者の皆さんの親世代は、夫が働いて妻は専業主婦の人が多いですよね。夫の中には「40年以上、頑張って働いてきたんだから老後くらい自由にお金を使いたい」という考えを持つ人もいるでしょう。一方で妻は「お金を使うペースを落とさなければ蓄えがなくなってしまうかもしれない」と不安に思っている。老後のお金の使い方で口論になる夫婦はいると思います。老後生活のダウンサイジングについて共通の認識が持てないせいで、親のどちらかがイライラしていないかを子どもは観察してみたほうがいいですね。

 それから、住宅ローンが終わっていない人も問題を抱える可能性があります。住宅ローンの返済期限が80歳まで設定可能になっているので、ローンがまだ残っていたり、繰り上げ返済するつもりができなかったりするケースも出てきているんです。