浅井 介護保険制度の登場によって、子どもは介護サービスをどう使うかを検討しなくてはいけなくなりました。介護サービスで担えない部分はどうするか、介護サービスを使いたくない親をどうしたらいいか。例えば、他人が家に入ってくるのを嫌がる親を説得できず、親子間に新たな火種が生まれたりもします。生活が立ちゆかなくなるギリギリまでサービスや支援を受けないことで、対策が遅れてしまうこともあります。

―― 生活に支障が出ていることを子どもに隠したりするケースもあるのでしょうか。

浅井 はい。「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」「あなたに迷惑かけたくなかったから」というような会話は多くの家庭で聞かれるのではないでしょうか。混乱の中で「誰が介護をするのか」と家族間でもめてしまうことも多いと思います。結婚や家族のあり方に対する親子間での価値観の相違もコミュニケーションを難しくしている要素かもしれません。結婚していない子どもも多いですし、共働き家庭も当たり前。いろいろな価値観があるため、親の面倒を見る社会的なモデルが定まっていない時代です。みんな答えを見つけにくいんですね。

日常に関わることで、価値観の相違が表面化する

―― 離れて暮らしている間に、子どもには子どもの仕事や生き方に対する考え方が出来上がっていて、それは親世代の「当たり前」とはだいぶ違っていることもありますよね。

浅井 親に手助けが必要ないうちはうまくやれる親子は多いと思うんです。用があるときに連絡し合って、たまに一緒に食事に行ったり、お盆やお正月に集まったりということはうまくやっていけます。でも、介護や暮らしのサポートは日常に深く関わることになるので、親子間での価値観の相違や互いの人生をどう思っているかなどの本音が出やすくなり、トラブルにつながりかねない。これはもともと関係がよかった親子でも起こりうる話です。