親がこの先、病気になったり、介護が必要になったりしたときに備えて、元気なうちにいろいろ話しておくのは大事なことです。でも実際は、コミュニケーションをスムーズに取るのは難しいもの。子どもがよかれと思ってあれこれ心配する一方で、親には親の気持ちがあるようです。そんな「親のホンネ」を探りつつ、安心して過ごしてもらうために子ども世代はどう接すればよいのか。90歳を超えた母親と同居しながら、民生委員として多くの高齢者と接している介護・福祉ライターの浅井郁子さんと考えていきます。

親に「膝が痛くて」と言われたら、何と声をかける?

編集部(以下、略) 親が高齢になるといろいろと心配なことが出てきますが、いざそれについて話そうとすると、「大丈夫」と言われてしまったり、話をはぐらかされたり。これまでの親子関係では経験したことのないコミュニケーションの難しさを感じます。

浅井郁子さん(以下、浅井) 親が「こうしてほしい」という気持ちと、「子どもがこうしたい」という気持ちが一致しないことが多いからでしょう。子どもがよかれと思ってしたことでも、親に拒否されることがある。親も子どもに心配してもらえることはうれしいのですが、親のことをしっかり観察しないで物事を決めてしまうと、親子間に小さな亀裂が入りやすくなるのだと思います。

 例えば、親が腰や膝が痛くなって以前のように歩きにくくなっていたとします。「痛い」と言われたら皆さんはどうしますか? おそらく、「病院で痛み止めをもらったら?」「少し筋肉つけたほうがいいんじゃない?」などと、解決策を言うと思うんです。でも、そのようなことは、親は全部分かっているんですね。まずは「痛い」と言っていることを受け止めてあげることが大切。方法論はその次でいい。それが、コミュニケーションの第一歩かなと思います。

―― 確かに、ああしなよ、こうしたらいいよと言っている気がします……。こちらは心配しているつもりでも、親にしたらただ聞いてほしいだけで、そこからコミュニケーションのずれが始まってしまうわけですね。

浅井 親が衰え始めたときに、子どもはできないことを手伝うだけでいいんです。くれぐれも、親の暮らしを変えようとしないこと。70代、80代、90代まで生きてきたということは、生活習慣に関していえば、今の状態が「ほぼ正解」の人が多いはずです。年を取れば心身の機能に低下が見られるのは当然のことなので、この年齢まで親が頑張れたことをまずは受け止めてあげてほしいと思います。

親が不調を口にしたら、解決策の提案よりも、まずはただその言葉を受け止めて
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介護保険制度で家族の介護の負担は減ったけれど…

 ところで、今の高齢者って、戦後、故郷を離れて都市部で核家族をつくることが一般的になった最初の世代なんですね。そしてその子ども世代も、結婚や就職で家を出て核家族で暮らすのが当たり前になりました。

 個々が別々の家庭をもつ時代ですから、親に手助けが必要になっても、距離感を近づけるのが煩わしいと互いに感じてしまうでしょう。そうした中で、介護保険制度が今の90歳前後の人が高齢期にさしかかる2000年にスタートしました。「介護は社会で担う」という仕組みができたことで、家族が親の面倒を全面的に見なくてもよくなりましたが、そういう「当たり前」がなくなったことも、高齢親と子のコミュニケーションの難しさに影響を与えているかもしれません。

―― それはどういうことでしょうか?