ここ最近、経済ニュースなどで頻繁に目にする「メタバース」の文字。「インターネット上の仮想空間」と説明されることが多いですが、注目度が高い割に実体がいまひとつ分からないという人も多いのではないでしょうか。メタバースとは一体何か、人々の生活やビジネスをどのように変える可能性があるのか。メタバースのプラットフォーム「cluster(クラスター)」を運営するクラスター代表取締役CEOの加藤直人さんが基本から解説します。

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(2)メタバースは老いも身体的ハンディも無関係の自由な世界 ←今回はココ
(3)引きこもりは地球に優しい? メタバースが導く未来とは

メタバースを体験するのにVRゴーグルは必須?

編集部(以下、略) 素朴な疑問なのですが、バーチャルな世界であるメタバースを体感するためには、VRゴーグルのようなデバイスを使うことが不可欠なのでしょうか。

加藤直人さん(以下、加藤) 確かにVRゴーグルはかなりの没入感が味わえますが、それがメタバース体験の最終的な理想形かというと、そんなことはないんですよ。SF映画などで描かれるメタバース的な世界だと、コンピューターが描き出す世界の中でご飯を食べたり、体がぶつかったら痛かったりといったことがありますが、今のVRゴーグルは視覚と聴覚でバーチャル空間を体験するものなので、匂いも痛みも感じられないし、ご飯も食べられません。現段階で、メタバースの世界を最も臨場感のある形で体験できるデバイスがVRゴーグルであるというだけなんです。

 僕は大学院を中退した後に、スマホゲームを開発しながら3年間ひきこもり生活をしていた時期がありました。そのときは何時間もぶっ通しで、おなかがすいてもご飯も食べずにゲームをし続けたりしていたのですが、ふと画面から顔を上げた瞬間に、「帰ってきた」という感覚を味わったんです。ゲームの世界から現実世界に帰ってきた、と(笑)。

 その瞬間まで、僕の意識は完全にバーチャルな世界の中にあった。これもある意味、メタバースを体験していたことになるかもしれません。結局は認識の問題でしかなくて、VRゴーグルというデバイスは、没入する行為をやりやすくする存在なのかなと感じています。

 とはいえ、スマートフォンを含め、メタバースを体験するためのデバイスはグラデーション状に発展・普及していくと思います。今、僕たちが運営しているメタバースのプラットフォーム「cluster(クラスター)」では、ユーザーのうちVRゴーグルを使っている人は2~3割程度。残りはほぼスマホユーザーです。バーチャル空間をスマートフォンで体験する人もいればパソコンで体験する人もいるし、VRゴーグルを装着して体験する人たちもいる。今はそういうグラデーションです。

 デバイスも大切ですが、メタバースにおいてもっと本質的に重要なことがあります。3DCG(3次元コンピューターグラフィックス)で描かれたメタバースの世界は、1つの企業がすべて作っているものではないということです。

「VRゴーグルなどのデバイスを使うかどうかはあまり重要でなく、意識がバーチャルな世界の中に入り込んでいれば、メタバースを体験しているということになると思います」(加藤さん)
「VRゴーグルなどのデバイスを使うかどうかはあまり重要でなく、意識がバーチャルな世界の中に入り込んでいれば、メタバースを体験しているということになると思います」(加藤さん)