ここ最近、経済ニュースなどで頻繁に目にする「メタバース」の文字。「インターネット上の仮想空間」と説明されることが多いですが、注目度が高い割に実体がいまひとつ分からないという人も多いのではないでしょうか。メタバースとは一体何か、人々の生活やビジネスをどのように変える可能性があるのか。メタバースのプラットフォーム「cluster(クラスター)」を運営するクラスター代表取締役CEOの加藤直人さんが基本から解説します。

(1)注目のメタバースって? 2021年に「事件」が起きた ←今回はココ
(2)メタバースは老いも身体的ハンディも無関係の自由な世界
(3)引きこもりは地球に優しい? メタバースが導く未来とは

編集部(以下、略) メタバース、最近本当によく聞く言葉ですが、理解があいまいです。「インターネット上の仮想空間」という解説をよく目にしますが、分かるような、分からないような……。

加藤直人さん(以下、加藤) 初めに辞書的に解説すると、メタバースは「メタ(高次元、超越といった意味のギリシャ語)」と「バース(ユニバース=宇宙、万物、世界)」の合成語です。直訳すると、高次元の宇宙、宇宙を超越したもの、といった意味合いになります。

 メタバースには「これだ」という定義は存在していません。ある種、100人が100通りのことを考えていて、まさしくバズワードになっているのが現状です。とはいえ、何となく皆さんが思い浮かべている共通の場所みたいなものはあるんですよね。例えば、映画作品でいうと『マトリックス』や『サマーウォーズ』、『竜とそばかすの姫』などの世界。コンピューターが描いたデジタル空間の中で人間が生活するといった発想は、割と前から映画の中で語られてきました。

人類はずっと前から「メタバース的な世界」に憧れてきた

 「メタバース」という言葉が初めて登場したのは、1992年に発表された『スノウ・クラッシュ』という米国のSF小説です。メタバースは、ゴーグルとイヤホンを装着することで入り込めるバーチャルな世界として描かれ、そこで人々はアバターを通じて行動しています。ただ、メタバースという言葉を使っていないだけで、もっと前の82年にも、コンピューターの中の世界に入って敵と戦う『トロン』というディズニー映画がありました。

 コンピューターが世の中に登場した初期の頃から、自分の身体や物理的な制約から解き放たれる夢を、人類はたびたびフィクションの世界で描いてきたのです。

―― 人々の中に、現実世界から解き放たれたい願望があったということでしょうか?

加藤 そうです。なぜ、メタバース的な世界を扱った作品が古くからたくさんあって、今、メタバースという言葉にこれほど人々が引きつけられているのかというと、おそらくこの現実世界にがっかりしている人が多いからなんですよ。

 自分の容姿をもろ手を挙げて気に入っているという人はなかなかいないでしょうし、誰しも老いに逆らうことはできません。また、人は生まれた土地によって行動範囲がある程度規定されます。でもバーチャルの世界では、アバターで自分の好きな外見になれるし、「こんな世界に住めたらいいな」といった願いもかないます。見た目上は、ものすごい豪邸に暮らすことも可能なわけです。

 だから、メタバースを言葉で表すと、おそらく「人類が描いてきた夢の生活スタイル」になると思っています。コンピューターが描き出した世界の中に入り込み、それによって土地や身体、物質から解き放たれた生活スタイルになる。いろんなものを捨ててしまおうという、ある種のイデオロギーなんです。

 そういうイデオロギーに対して、現実世界でメタバースが明確に盛り上がるようになったのは、2021年の後半です。一体何があったのか。

「メタバースとは何かと聞かれたら、僕は『人類が描いてきた夢の生活スタイル』と答えています」
「メタバースとは何かと聞かれたら、僕は『人類が描いてきた夢の生活スタイル』と答えています」