「演歌はこうでなければだめ」という呪縛からの脱却

 そして迎えた氷川きよしデビュー20周年。どんなときでも、長良さんが生きていたら「何をどう言ってくださるか」といつも考えながら生きてきたという、生真面目すぎるほど真面目な血液型A型人間の氷川さん。昨年あたりから急にゆるく溶け出して、髪を柔らかな栗色にしたり唇にグロスを塗ったり、美しい生脚を出した始球式で話題を呼んだりしましたけれど、実はその変化は突然のことではありません。彼が31枚目のシングル曲として、テレビアニメ『ドラゴンボール超』のオープニング・テーマ曲『限界突破×サバイバー』を出した、もう2年以上前の2017年10月頃から変化は始まっていました。それこそ「限界突破」で、「演歌はこうでなければいけない」という枠に縛られて生きることに、素直に「それは違うんじゃないか?」と思い始めたからだと語っています。

 デビュー曲の『箱根八里の半次郎』のときも、それまでの演歌や股旅物の古くさいイメージを壊そうとして、長良さんがあえて作詞家の大御所だった松井由利夫先生に作詞を注文。「やだねったら やだね」というキャッチーな言葉を入れてもらって大ヒットしました。もう今は長良プロも2代目さんの時代。あらゆるバリア、誰かが暗黙のうちに築き上げて来た限界枠を壊してでも、自分は自分らしく輝いて生きたい! 好きだと思う歌を、好きなように、好きな衣装を着て歌いたい!! と氷川さんは考えて、それが許されるようになったということでしょう。

フレディの素晴らしさと、孤独に共感して泣いた

 そんな氷川さんの背中を押してくれたのが、一昨年から昨年にかけて大ヒットしたクイーンのボーカリスト、フレディ・マーキュリーの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』でした。

 氷川さんはこの映画をまず劇場で見て大感動。次にもう一度、海外に出かけたときに機内で見て、何よりもクイーンの音楽と、ボーカリストとしてのフレディの素晴らしさと、彼の孤独に共感して泣いたといいます。そして、自分もあの主題曲の『ボヘミアン・ラプソディ』を歌いたい! と、折々に会って相談に乗っていた私に話していました。

 それを聞いて、最初は私も簡単に考えて、「あっ、それなら良い日本語詞を探してあげるね」と答えたのですが、訳詞には具体的に2つの心当たりがありました。なにしろこの曲自体は、シングル曲として大ヒットしたのが1975年で今から45年も前の曲です。それで最近のステージでも、ベテランの歌手の女性と、シャンソン畑の男性の方が、ご自分で訳した独自の歌詞で歌っていたのを聞いて、「あ、あの詞をいただくのもいいかも…」と考えたのですが、話はそんなに簡単ではありませんでした。