音楽評論家、作詞家として50年以上のキャリアを持つ湯川れい子さん。国内のみならず世界中のスターやアーティストと親交を深めてきました。そんな湯川さんによる自筆のコラムです。 世界中のアーティストとの交流、昨今のエンターテインメントについて考えていること、さまざまな土地を旅して感じていることなどをつづってもらいます。

 コンサートに行って感動して、「あゝ、生きていて良かった!」と思うことは、きっと誰でも人生に何回かあることでしょう。でも、「もうこれで死んでも思い残すことはないなァ……」と、しみじみ思えるコンサートなんて、特に若い頃はきっとありませんよね。そうあってもらっても困るでしょうし(笑)。

 それがね、私にはあったんですよ。ついこの間。

鹿児島のお寺の観月会に、音楽を奉納して20年

 前回の記事「湯川れい子 エルヴィス命日に思う 西城秀樹との共通点」で、台風10号のために、エルヴィス・プレスリーの42回目の命日前夜(8月15日)に行う予定だったペンライト・ヴィジルが中止になった、というお話を書きました。そしてその翌日の16日、鹿児島のいちき串木野市の山の中にあるお寺「鎭國寺」で開かれる観月会のために、私は神戸から鹿児島まで新幹線でやって来ました。観月会は毎年、中秋の名月の1カ月前の8月、満月の夜に行われます。

 台風が行った後の空は青く高く晴れ上がって、桜島が雄大な姿をデーン! と見せてくれていました。

 その桜島を左手に見て、車で約1時間。東シナ海が望めるあたりまで来ると、行く手にポッコリと冠をかぶせたようなお山が見えてくるのですが、これが中腹に鎭國寺を抱いている冠岳です。ここは紀元前210年ごろ、秦の始皇帝の命を受けて、不老不死の薬を探しに中国から船で渡ってきた徐福という人が、この山こそ仙人が住む霊山に違いないと、陸に上がって冠を納めたという伝説が残っているお山。お寺に登る参道の下の公園には、今も故郷の方角をジッと見ている徐福像が建っています。

鹿児島のいちき串木野市の山の中腹にあるお寺「鎭國寺」と徐福像
鹿児島のいちき串木野市の山の中腹にあるお寺「鎭國寺」と徐福像
鹿児島のいちき串木野市の山の中腹にあるお寺「鎭國寺」と徐福像

 私と鎭國寺との出合いは、今から20年とちょっと前。私が突然の家庭崩壊で悩み苦しんでいた頃、当時やはり大きな悩みを抱えていた息子が、ちょっとしたご縁からここの和尚さまのお世話になりました。以来、私が日本で最も好きなお寺として、毎年8月に音楽を「奉納」させていただいてきたのでした。