音楽評論家、作詞家として50年以上のキャリアを持つ湯川れい子さん。国内のみならず世界中のスターやアーティストと親交を深めてきました。そんな湯川さんによる自筆のコラムです。世界中のアーティストとの交流、昨今のエンターテインメントについて考えていること、さまざまな土地を旅して感じていることなどをつづってもらいます。

日常を失いとまどう日々。旧友からのメールが…

 つい昨日までの日常が、昔見た夢のように遠のいて、いつまたあの懐かしい店で、友人たちと楽しく食事ができるのだろうか。本当にそんな日は来るの? と、つい心細さに涙があふれてきそうな思いを、皆さんも毎日味わっておいでなのではないでしょうか?

 東京や大阪などの7都道府県から、緊急事態宣言の対象区域が全国に広がって、私の日常にも変化がありました。

 まず今までは、長い原稿や作詞など、書く仕事をわざわざ少しため込んで、「山の仕事場」と呼んでいる静岡の温泉がある小さな部屋までドカッと持参。今ごろは窓辺にウグイスの声を聞きながら昼間は仕事に精を出し、夜は近隣の伊豆や熱海、小田原まで足を延ばして、生きのいい魚介類を食べに行くのを楽しみにしていたのに、そんな贅沢(ぜいたく)もかなわなくなりました。

 4月半ばの今は、昼間は自宅で5月6月のイベントやコンサートが中止や延期になったことへの対応と、4月中に締め切りの原稿や作詞に向き合おうとしているのですが、これがことのほか難しい。先が全く見えず、9月や10月に延期しても、それで予定通りにいくのか。働いてくれている人たちの生活の保障も含めて、私自身が来年、下手をしたら再来年まで生き残って行けるのかどうか? など考えてしまうのです。

 これは来年にオリンピックを延期した「日本」という国の命運も含めて、誰しもがそれぞれ不安に思っていることでしょう。

 そんな心がザワついて机に向かえないでいる時に、4月11日現在で、総人口約3億3000万人のうち、53万人を超える新型コロナウイルス感染者と、1日に世界最多の2000人を超える死者数を出している米国から、私の身を案じてくれる古い友人たちからメールが立て続けに届きました。

 まずニューヨークのハーレムに住んでいる「ゴスペルの母」と言われるプロデューサーのヴァイ・ヒギンセンです。

ゴスペルの母、ヴァイ・ヒギンセンさんと
ゴスペルの母、ヴァイ・ヒギンセンさんと
ゴスペルの母、ヴァイ・ヒギンセンさんと

 彼女はハーレム初の全出演者が黒人というミュージカル「Mama, I Want to Sing」の原作者でプロデューサーであり、1960年代からラジオのDJとして仕事をしてきたキャリアを生かして、83年の初演から全世界で2500公演のステージにも立ってきたという女性です。