「こがし祭り」最も情緒豊かな風物詩は…

 でも、私がそんな熱海で一番好きなのは、昔から市を挙げてにぎわう夏の例祭「こがし祭り」です。7月14日の宵宮祭から始まって、15日のお神輿(みこし)の練り歩きや、市内の町ごとにつくられる山車(だし)のコンクールなどが開かれます。趣向を凝らした山車の上には、ピーヒャラピーヒャラと子どもや若い男女が演奏するお囃子(はやし)隊が乗って、これもコンクールの対象ですが、30数基の派手に飾り立てられた山車が、狭い街中や国道を行き交うさまは、実に華麗でスリリングです。

趣向を凝らした山車
趣向を凝らした山車
趣向を凝らした山車

 東京からわずか1時間足らずで行ける熱海で、今もこんなお祭りが盛大に行われているなんて、きっと知らない人も多いことでしょう。本当にもったいないと思いますよ。

 そして何よりも素晴らしい情緒豊かな風物詩は、その夏祭りが始まる7月14日以前の熱海の1週間です。

 熱海銀座周辺から来宮神社に向かう坂の町のあちこちから、それぞれの町の山車に乗るお囃子のお稽古の音が聞こえてきます。その音をたよりに近寄って行ってみると、山車が置いてある路地の奥や、町中を流れる川の橋の上、民家の軒先などに椅子を並べて、町内のお年寄りや年長のお兄さん、お姉さんの笛に交じって、まだ4~5歳の小さな子どもたちの姿が。夕食後から夜の9時ごろまで、時に眠そうな目をこすりながら、一生懸命にお囃子のお稽古をしているのです。

 これが本当に上手でかわいらしくて楽しくて。私は近くの電柱やお店の壁にもたれて、お稽古の音がやむまで、飽きずに聴いている時間を、どんなコンサートを聴きに行くよりも楽しみにしているのですよ。

お祭りの前には、子どもたちが一生懸命、お囃子のお稽古をしていました
お祭りの前には、子どもたちが一生懸命、お囃子のお稽古をしていました

文・写真/湯川れい子