男性団体客の街から、子どもやカップルが楽しめる街へ

 面倒くさい話は抜きにして、言いたいことだけを言ってしまうと、そのシンポジウムを聞きに来てくださった有名旅館やホテルの社長さん、それに観光業者や市の職員さんなど、出席者は99%が男性で、女性の姿はほとんどゼロ。これには当時でもちょっとびっくり!

 毎年お正月になると、熱海の芸者さんが島田(まげ)に結った髪に稲穂のかんざしを着けて、匂い立つような黒の紋付の裾引きの衣装で静岡の県庁にごあいさつに行く、という話は前の市長さんから聞いていましたけれど、バブル最盛期の熱海は、男性の団体客でにぎわっていて、一昔前の新婚旅行客などほとんど見当たらず。宴会とカラオケ。それに当時は別の名前で呼ばれていた怪しげなサウナが立ち並んでいたものでした。

 問題は、バブル期に拡張した旅館やホテルが、お土産物屋さんからカラオケ、バーなど、すべてをそろえてしまったことで、一度館内に入ったお客は外に遊びに出ていかないために、風俗業以外のお店は営業不振で、これも街の活気を失わせる大きな原因となったのでしょうね。

 シンポジウムでは、子どもこそが未来の客であり、その子どもの母となる若い女性が、恋人を連れて遊びに来てくれるような街でない限り発展は望めない。そのためには子どもが遊べる所と、女性が喜ぶ風景や、おいしい物を手ごろな値段で楽しめるお店があること。美容と健康に温泉をもっと活用できるようにすること。日本中どこに行っても同じようなお刺し身や天ぷらが並ぶような夕食提供はやめて、外で自由に食事ができる素泊まりのホテルを増やすこと。結構それぞれに言いたいことを申し上げて、シンポジウムは終わったのでした。

 3年後の2004年、熱海サンビーチと呼ばれる海水浴ができるビーチの後ろの遊歩道に、「海ほたる」を連想させる3色の発光ダイオードを埋め込んだり、打ち寄せる波に月光をイメージしたブルーの照明を当てたりしたライトアップが、石井幹子さんのアイディアとデザインで完成。「ムーンライトビーチ」と名付けられて、2006年の4月には、この熱海サンビーチ・親水公園が「恋人の聖地」として認定されています。

石井幹子さんのアイディアとデザインで完成したムーンライトビーチ
石井幹子さんのアイディアとデザインで完成したムーンライトビーチ

 その後、熱海市の熱意ある努力で、古い旅館やホテルは新しく姿を変え、毎年行われるB級グルメが楽しめるビール祭りや、名物の海上花火大会などに、若い女性やカップルがどんどん来るようになりました。あの街おこしのシンポジウムからもうじき20年になろうとする今は、お正月の来宮神社など若い人でいっぱいで押すな押すなの盛況です。