さまざまなアプリが瞬時に立ち上がり、複数のことが同時進行するスマホ。便利な半面、このような「マルチタスク」は脳を疲弊させ、パフォーマンスを落とす要因になるそうです。脳科学を研究する早稲田大学理工学術院教授の枝川義邦さんに、マルチタスクがなぜ脳を疲れさせるのか、脳疲労を避けながら仕事のパフォーマンスを高める方法を聞きました。

(1)「スマホ脳」が引き起こす脳疲労 記憶・集中力が下がる
(2)スマホアプリの問題点 マルチタスクがストレスの原因に ←今回はココ
(3)スマホのブルーライトより睡眠の質を低下させる〇〇〇

スマホの影響を受けなければ集中力のピークは40代

編集部(以下、略) スマホを使うことによって情報量が増えて脳の処理が追い付かないこと、つねに通知に注意を向けているために脳が疲れるというお話を聞きましたが、最近、仕事をしていても集中力が低下し、パフォーマンスが下がっているように感じます。

枝川義邦さん(以下、枝川) 最新の研究では「集中力のピークは43歳」という報告があります。自覚的には「若い頃のほうが集中力が高かった」と思われるかもしれませんが、実は40歳過ぎまで集中力は積み上がり、上向きに維持されているのです。人生経験を積むことによって「どういう場面で集中すればいいか」という戦術も身に付いてくる、というのもあるでしょう。

―― そうなのですね。ピークが40代とは意外です。

枝川 ただし、その研究ではスマホの影響は加味されていません。集中力を発揮しやすい脳の重要な条件は、「脳が疲れていない」ことですが、スマホの使用によって影響を受けるのは脳の中でも「疲れやすい場所」、前頭葉なのです。

 前頭葉は、社会との関わりや価値判断、スケジューリングなど社会生活を行う際に必要なことを判断する場所。スマホ操作によって疲れやすいのがこの前頭葉です。ここが影響を受けると集中力が発揮できません。

スマホの使い過ぎで疲労しやすい前頭葉は「脳の司令塔」=「考える」「記憶する」「感情をコントロールする」「判断する」など人間にとって大切な機能に関与している
スマホの使い過ぎで疲労しやすい前頭葉は「脳の司令塔」=「考える」「記憶する」「感情をコントロールする」「判断する」など人間にとって大切な機能に関与している

枝川 動画を見ながらメールを打つ、というようにいくつもアプリを立ち上げて、同時並行で見たり聞いたり書いたりができてしまうのがスマホです。近年の研究によって、マルチタスクの中でもデジタル機器を使ってのマルチタスク=「デジタルマルチタスキング」は、最も脳への影響が強いと言われています。スピードと情報量が圧倒的に多いデジタルのマルチタスクが脳を疲れさせるのです。

 複数の電子機器を同時に利用するメディア・マルチタスキングで、そのパフォーマンスへの影響を調べた研究があります。平均以上にマルチタスクを行う人と、マルチタスクが平均以下の人で比較したところ、平均以上にマルチタスクを行う人は、テスト中の無関係な刺激によって容易に気が散り、パフォーマンスが低下しました(グラフ)。

 マルチタスクにはこの他、IQを低下させる、生産性を下げるなどの研究報告があります。

デジタルメディアにおいて平均以上にマルチタスクを行う人と、平均以下の人に認知機能に関するテストを行った。平均以上にマルチタスクを行っている人は、集中を邪魔する回数が増えるほどパフォーマンスが低下した (データ:Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Sep 15;106(37):15583-7.)
デジタルメディアにおいて平均以上にマルチタスクを行う人と、平均以下の人に認知機能に関するテストを行った。平均以上にマルチタスクを行っている人は、集中を邪魔する回数が増えるほどパフォーマンスが低下した (データ:Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Sep 15;106(37):15583-7.)