分からないことは瞬時に検索でき、動画や音楽も楽しめる。SNSで常時つながることができるスマートフォン。今や手放せない存在になっているスマホですが、使いすぎによって脳に悪影響を及ぼし、集中力の低下やうつリスクを高める可能性などが指摘されはじめています。脳科学を研究する早稲田大学理工学術院教授の枝川義邦さんに、「スマホ脳」とはどのような状態か聞きました。

(1)「スマホ脳」が引き起こす脳疲労 記憶・集中力にも影響 ←今回はココ
(2)「覚えられない」作業効率を下げるマルチタスクの問題点
(3)スマホのブルーライトより睡眠の質を低下させる〇〇〇

スマホが側にあるだけで集中力が下がる

編集部(以下、略) スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏による『スマホ脳』(新潮社)がベストセラーとなっています。スマホの便利さの裏側で脳が悪影響を受け、うつリスクが高まる、学習効果が低下する、などといった記述が話題を呼びました。実際に私たちの脳は「スマホ脳」になっていて、脳に悪影響がもたらされているのでしょうか。

枝川義邦さん(以下、枝川) 現在、スマホの脳への影響については世界中で研究が進行していますが、その全体像はまだ明らかになっていません。

 可能性があるとされているのが、スマホの使いすぎによる脳の働きの低下です。物忘れが増える、頭がぼんやりするなどの認知症のような症状が起きると言われていますが、診断を確定するには画像診断によって脳の萎縮を確認することが必要です。今のところ、「脳の機能低下は見られるが、萎縮が起きるほどではないのではないか」とされています。

 うつリスクについては、1513人の大学生を対象とした研究で、1日4時間以上スマホを使用するとうつ病や不安感情を起こしやすい[1]、また、1400人の大学生を対象にした研究では、スマホ依存は双極性障害、うつ病のリスクがいずれも4.2倍に、不安神経症が1.2倍に高くなるとされています[2]。

 こんな研究もあります。大学生520人がスマホを「机の上に置く」「ポケットまたはバッグに入れる」「別の部屋に置く」状態で認知機能のテストを受けたところ、スマホを別室に置いたグループが最も認知機能テストの成績が良かった。つまり、スマホを使わなくても、机に置いたりポケットやバッグに入れたりしてその存在を感じているだけで集中力に悪影響を受ける、という結果が判明しました(グラフ)。

大学生520人を対象に、スマホを置く位置と認知機能テストの成績の相関を調べた。その結果、「机の上に置く」グループが最も成績が悪く、「別室に置いた」グループの成績が最も良かった。(データ:Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140–154.2017)
大学生520人を対象に、スマホを置く位置と認知機能テストの成績の相関を調べた。その結果、「机の上に置く」グループが最も成績が悪く、「別室に置いた」グループの成績が最も良かった。(データ:Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140–154.2017)

枝川 一方、一定期間パソコンやスマホから距離を置くという「デジタル・デトックス」によって脳の機能が回復するという事例もあります。スマホ使用と脳機能低下には因果関係がありそうだと複数の研究者が考えていますが、「確実にある」というにはさらに強い証拠が必要です。

[1]East Mediterr Health J .2020 Jun 24;26(6):692-699. [2]Iran J Psychiatry. 2020 Apr; 15(2): 96–104.