「老後資金をためなきゃ」「定年後も働けるようにスキルアップ」――私たちは「未来に備える」ことを善とし、計画的な人生を礼賛しがちですが、その生き方は、未来のために今を犠牲にしていませんか? 世界に目を向けると、私たちの価値観とは真逆な「その日暮らし」で幸せに暮らす人々が多く存在しています。彼らの生き方から学べることとは? 今、最も注目の文化人類学者・小川さやかさんが「その日暮らし、Living for Today」な生き方を6回にわたって考察します。

あらゆる仕事を変遷。ジェネラリスト的にその日暮らし

 タンザニアの都市住民は、頻繁に職業を変えながらその日その日を生きています。そのあり方は、何かの専門家になるのではなく、何でもある程度こなせるジェネラリスト的な生き方とも言えます。

 私の調査助手をしてくれた40代の男性ブクワとその妻ハディジャも、このような意味でのジェネラリストです。例えば、ブクワは、即興的な技能で建築業からサービス業、零細製造業、商業など多様な業種を渡り歩いています。

 また、タンザニアでは、リスクの分散を主たる目的に行われる「生計多様化戦略」が、個人単位・世帯単位でなされています。個人単位の生計多様化は、ブクワが建設現場での日雇い労働をしながら、サンダルの加工を行うといった、平たく言えば、「1つの仕事で失敗しても、何かで食いつなぐ」戦略です。

 また、世帯単位の生計多様化とは、「家族の誰かが失敗しても、家族の他の誰かの稼ぎで食いつなぐ」ということ。ブクワとハディジャはそれぞれ別々の仕事に従事して、どちらかがうまくいかなくなったら資本を柔軟に融通し合いながら、暮らしていく戦略を立てています。

マチンガと呼ばれるタンザニアの零細商人と小川さん。時には小川さん自身も古着の行商人になり、商品を売りながらマチンガの生活と仕事の調査を行った(提供:小川さん)

 こうした生き方は、何か仕事を見つけたら、それでステップアップをするという考え方とは異なります。例えば、ブクワは若い頃にはバスの呼び込みをしていて、運転手の仕事に憧れていました。実際、いとこから30万タンザニア・シリング(約1万4000円)の資金をプレゼントされたとき、それを元手に運転免許を取得しました。しかし、その後、彼が運転手の仕事を探したり、車を購入する資金をためたりしているところを私は見ていません。